研究課題/領域番号 |
20K12852
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研究機関 | 名古屋音楽大学 |
研究代表者 |
山口 真季子 名古屋音楽大学, 音楽学部, 講師(移行) (40782214)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | フランツ・シューベルト / ヘルマン・シェルヘン / ダルムシュタット国際現代音楽夏期講習会 |
研究実績の概要 |
本年度は、1950年代のダルムシュタット国際現代音楽夏期講習会の開催状況やその中で交わされた議論の把握を進めた。なかでも指揮者ヘルマン・シェルヘンの同講習会における活動と影響力についてこれまで十分に検討されているとは言えず、考察の必要があると考え、論文「ヘルマン・シェルヘンとダルムシュタット国際現代音楽夏期講習会――1947年を中心に」をまとめた。 特にシェルヘンが1947年の講習会においてベートーヴェンやバッハに関する講演を行っていることは注目に値すると考えられる。しかしそれらの講演で語られた内容は録音等の形で残されていないため、緊密な関係があると考えられる著作『音楽の本質について』(1946)をもとに考察を行った。同書ではバッハの《フーガの技法》、ベートーヴェンの交響曲、そして彼らの音楽と対比される形でシューベルトの《未完成交響曲》が取り上げられ、それぞれの音楽の独自のあり方が論じられている。そしてベートーヴェンの《第九》にポリメトリックや十二音音列につながるような進行を見出すなど、自分たちの時代の音楽における新しさに通じるものとして捉えていることが明らかになった。また、参加者たちの報告からはシェルヘンが十二音技法をめぐって形式主義に陥りがちな傾向に警鐘を鳴らすとともに、演奏家として「解釈」と峻別される「リアリゼーション」の重要性を説いていたことが分かった。彼の演奏家としての姿勢、また十二音技法や過去の作品に対する態度は講習会の参加者に大きなインパクトを与えたと考えられる。 さらにダルムシュタットに参加した作曲家たちの論考においては、シューベルトの存在がしばしばウェーベルンとの関連において言及されていることが分かる。ウェーベルンと対照されることによって、シューベルトのどのような側面がクローズアップされることになったかについて、今後より詳細に検討したいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
新型コロナウィルス感染症の拡大防止のため、予定していた海外での一次資料調査を行えなかったことが大きい。また刊行資料の読み込みは進めているが、シューベルトに関連する内容の収集の点で当初の予定ほど成果が出ていないため。
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今後の研究の推進方策 |
今後についても、海外での資料収集はしばらく厳しいと考えられる。よって、当初の研究計画から一部順序を入れ替え、楽譜や書籍等、刊行資料を用いて行うことのできる研究に先に取り組む。具体的には、シュネーベルのシューベルトに関する複数の論考と《シューベルト・ファンタジー》をもとに彼のシューベルト論を考察する予定である。一方で、ダルムシュタットにおけるウェーベルンに関する議論とシューベルトの語られ方との関係について、刊行資料の中から言説を収集し、内容を検討したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの蔓延により海外での資料調査が不可能となり、旅費を一切使用しなかったことに加え、海外調査で使用することを想定していたパソコン等の購入を見送ったことなどから、次年度使用額が生じた。今後の研究においても、海外での調査はしばらく難しいと考えられるため、書籍等の購入や海外の図書館や資料館の資料について可能な範囲での取り寄せなど、資料収集のための費用が中心となると考えている。
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