研究課題/領域番号 |
20K12852
|
研究機関 | 名古屋音楽大学 |
研究代表者 |
山口 真季子 名古屋音楽大学, 音楽学部, 講師(移行) (40782214)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | フランツ・シューベルト / ヘルマン・シェルヘン / ディーター・シュネーベル / 音楽的時間 |
研究実績の概要 |
本研究は、両大戦間期に見られたシューベルトを「進歩的」な作曲家として評価しようとする発想が戦後のシューベルト解釈にどのような影響を及ぼし、また戦後の作曲を巡る議論との関わりの中でどのような展開を見せたのかを明らかにしようとするものである。 本年度も、前年度に引き続き海外調査が難しい状況であったため、次年度に計画していた研究を前倒しして進めた。具体的には論集等の刊行資料が比較的豊富なディーター・シュネーベルによるシューベルト解釈に注目した。シュネーベルによるシューベルトに関する論考のうち最重要と考えられる「解き放たれた時を求めて――シューベルトついての第一の試論」(1969)を中心に考察し、論文「ディーター・シュネーベルが見るシューベルト作品における時間構造」にまとめた。シュネーベルの同論文に言及した先行研究はすでに複数あるが、ここではそれを主題的に取り上げ、シューベルト作品の内容と突き合わせて具体的に検討した。またシュトックハウゼンをはじめとする同時代音楽についてシュネーベルが音楽的時間の観点から論じた別の論文を合わせて考察することで、当時の作曲における問題意識とシューベルトを論じるうえでの新たな視点との関連を指摘できたことは一つの成果と考えている。 また、これまでの研究成果をもとに、指揮者ヘルマン・シェルヘンのシューベルト理解がシェルヘン自身の音楽に対する態度とどのように関わり、またそれが第一次世界大戦時のロシアにおける民間捕虜としての彼の経験とどのように結びついているのかを論文にまとめ、共著『音楽と越境――8つの視点が拓く音楽研究の地平』で発表した。その際、シェルヘンがロシアで築いた人脈が戦後の作曲家たちとの関係性構築にも関わっていることが分かったため、今後の研究においてはその詳細の把握にも努めたい。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は当初の予定を変更して、シュネーベルを中心とする入手可能な資料での考察を進めることができた。一方で今年度も海外渡航が難しい状況が続いたため、刊行資料の多くないシェルヘンやマデルナに関する資料収集として予定していたベルリン芸術アカデミー資料室やパウル・ザッハー財団などでの調査が行えていないことからやや遅れているといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度はシュネーベルのシューベルト解釈における音楽的時間の観点を中心に考察したが、今後はさらに、空間性の問題をはじめとするその他の観点にも目を向けることで、シューベルト作品の解釈と戦後の音楽の潮流との関係を明らかにしていきたいと考えている。その際、当初計画していたように1950~60年代のダルムシュタットを中心とする作曲の議論の中からシューベルトへの言及を拾い上げることは効率的でないことが判明したため、1970年代に顕著になってくるシューベルトへの関心(論考やオマージュ作品等)に見られる観点からさかのぼって1950~60年代の議論との関わりを検討する。またここまで実施できずにいる海外資料調査も行い、これまでに行ってきた考察内容と突き合わせていく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症の影響で昨年度に引き続き、海外での資料調査を行えなかったこと、またそのために海外調査で使用を予定していたパソコン等の購入を見送ったことが大きい。2022年5月現在、海外での資料調査も可能な状況になってきたため、旅費として使用するとともに、パソコン等の海外調査に必要な機材の購入も考えている。また引き続き、書籍、楽譜等の刊行資料、録音資料の購入に使用予定である。
|