研究課題/領域番号 |
20K12858
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
永井 慧彦 東京大学, 総合研究博物館, 特任研究員 (20788278)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 金銅仏 / 鋳造 / 彫刻 |
研究実績の概要 |
本年度は、制作手順や構造、細部の表現方法の確認を目的として、実際の作例を参考にした金銅仏の蝋原型(蝋による模型)の制作に取り組んだ。金銅仏では、大きさや形状が酷似する作例が知られる。例えば、法隆寺献納宝物のN163号及びN164号菩薩半跏思惟像(所蔵:東京国立博物館)は、先行する調査・研究において、その酷似する様子から、蝋原型制作時に雌型を利用することが可能性の一つとして指摘されている。同時代・地域での金銅仏の蝋原型制作において、雌型を利用した制作は特殊といえる。先述のN164号を対象に、公表されている調査結果の確認を行いながら、自作の石膏製模型から作成したシリコン製の雌型を利用し、蝋の貼り込みによる原型の制作を行った。今年度は本体・台座までを制作することができ、雌型を利用した蝋原型における像の構造と内部の状態を確認した。手・足、装飾などの細部の造形や鉄芯の挿入は次年度にて進めたい。未完成ながら、制作を通じて、雌型を利用する制作手順や、N163号との仕上げの差(内部鉄芯・中型(なかご)残存状況差などの原因)についても推測することができた。蝋原型を完成させた上で、その構造と制作手順を再度検討したい。同蝋原型は、ブロンズに鋳造して鋳掛・嵌め金などの仕上げとその道具について確認する予定である。現代の材料を用いる点や技術的な未熟などの諸条件が実験の課題としてあるが、様々な条件による制作実験を比較することで、その制作の実際や表現について考察したい。 制作では現在に残っている材料を用いる。このことから、当初の計画には含めていなかったが、近代彫刻の調査を取り入れた。鋳造技術の比較事例として、2点のブロンズによる肖像彫刻(長沼守敬作・榊俶像、新海竹太郎作・井口在屋像(所蔵:東京大学総合研究博物館)の調査では、像内の目視観察からブロンズ像の鋳造と仕上げに関する造詣を深めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナによる影響にて本年度予定していた調査を次年度以降に見送った。 実作例を基にした蝋原型の制作実験は、制作技術の未熟による遅れがあるが、原型の大部分はできており、構造や内部の状態を確認して雌型を使用する原型制作の手順を考察した。次年度で手・足、装飾など細部を制作し完成させた上で、改めて制作手順を検討したい。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度以降も調査活動の困難が予想されるため、制作実験を中心に進める。 初年度に制作した蝋原型は、引き続き細部などを制作した上で鋳造し、タガネやヤスリ、嵌め金や鋳掛などの仕上げ技術を検討するための資料として転用する。鋳造にあたっては、便宜的に石膏鋳型を使用する蝋型鋳造を依頼する予定である。 既に取り掛かっている細部(頭飾などの文様)の制作については、表現と技術についての関係を考察するため、部分的な試作も行いたい。 調査は図像・様式を中心に6~8世紀の金銅仏、石仏、塑像などの調査を行いその表現方法の差を確認する予定だが、今後の新型コロナの状況によって、文献や画像資料での確認にて代替することも検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
調査の延期・制作実験の遅れによって、物品費用、旅費、人件費、その他経費を次年度に持ち越す。 制作実験に必要な物品は、初年度に一括で購入する予定だったが、制作材料・道具は、実験の状況・内容に合わせて適したものを小分けにして購入することにした。
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