本年度は、先行研究で公表された画像やデータを参考に鋳造による制作実験を中心に進め、図像や形態に対する工人の理解と技術的なアプローチへの理解を深めた。 金銅仏の鋳造について、より視野を広げるために、東京国立博物館所蔵の法隆寺献納宝物金銅仏 N160号菩薩半跏像を対象に模刻した。模刻では、伝統的な材料である真土(まね)を用いた鋳造を行い、金銅仏の鋳造工程やブロンズ材料などの技術的な特徴やその表現を探った。前年度までの石膏鋳型による法隆寺宝物N164号菩薩半跏像のブロンズ模型制作と合わせて、鋳造技術を確認することができた。当初予定していた研究期間で、2件の実作例を基にした制作を行ったが、仕上げの工程など、未完了の部分は別に完了させたい。 新型コロナによる活動制限から、作例の現地調査は見送り、先行研究を中心とした資料調査を行った。昨年度から引き続き、東京大学総合研究博物館小石川分館所蔵の藤島亥治郎コレクションを含めて、朝鮮半島の仏教文化財を中心とする写真・調査メモ・図面などの資料調査を行った。同コレクションは、建築史家・藤島亥治郎の研究・教育活動によって収集された資料であり、仏教美術にかかわる資料も多く含まれている。朝鮮半島における仏教文化財を記録する総合的な学術資料として、美術史上でも重要なものと考え、資料の文字起こしと韓国慶州の資料を中心にデータ化も行った。もちろん、現地調査による作例の実見は必要であるが、資料を通じて朝鮮半島の仏教文化の様相を網羅的に知ることができた。なお資料の一部は東京大学総合研究博物館小石川分館のデータベース「藤島亥治郎コレクション」(写真箱)にて公開されている。この他、鋳造の参考事例として近代におけるブロンズ彫刻を調査対象に組み込み、近代以降の真土型鋳造の技術を確認した。
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