本研究は、地方版画の一つである津島版画と江戸で製作された錦絵(江戸錦絵)の技法材料を比較することで、江戸錦絵から受けた影響や津島地域特有の版画製作における特徴を明らかにすることを目的としている。 2020年度は、江戸後期から明治初期頃に津島で刊行されたと考えられる多色摺りの版画14点、板木7点の色材分析を中心とした材料調査を実施した。分析にはデジタルマイクロスコープ、蛍光X線分析、可視光反射スペクトル分析、三次元励起蛍光スペクトル分析、ラマン分光分析を用いた。 調査対象とした版画には、絵師や版元、改印がなく、制作年代を判別するための情報が含まれてはいないものが殆どであった。しかし、先行研究により、江戸錦絵に使用された色材の大まかな変遷は明らかになっており、これらの結果と照らし合わせることで、調査した津島版画の制作年代を大まかに、以下4つに分類できる可能性があることが明らかとなった。 ①文化文政以前 ②文化文政以降から明治初期 ③明治以降 ④明治中期以降 さらに、版画に使用された紙の繊維観察を行ったところ、和紙の代表的な植物である楮や三椏、雁皮とは異なる繊維が含まれた版画が複数あることを確認した。これらの版画は、色材調査によって明治以降に製作されたものと推定したが、色材分析に加えて繊維分析の結果を製紙産業に関する技術史と関連させることで、制作年代の判定の幅をより限定できる情報になると考えている。
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