研究課題/領域番号 |
20K12860
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研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
大和 あすか 東京藝術大学, 大学院美術研究科, 研究員 (30823752)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 浮世絵版画 / 津島 |
研究実績の概要 |
江戸後期から明治期にかけて津島市周辺で制作された浮世絵版画(津島版画)について、前年度までに18点の技法材料調査を行い、本年度は16点の調査に着手した。 津島版画などの地方で制作された多色摺の浮世絵版画は、江戸錦絵と共通する材料や技法が用いられているものと考えていたが、大判が一般的な江戸錦絵に比べ、大倍判や間倍判のサイズが多く、比較的大きい版画が制作される傾向が見られた。 さらに、図像研究から最も古い版画の後摺と考えられていた津島版画「日本惣社津嶋牛頭天王朝祭略図」および「日本惣社津嶋牛頭天王御祭礼信楽略図」の元素分析を行ったところ、青色の箇所からTiが検出され、二酸化チタンが含まれていることが推測された。二酸化チタンが白色顔料として工業化したのは1916年からであり、本資料はそれ以降に後摺が行われたこと推察される。板木の摩耗状態から再刻されることなく近代まで再摺されていた可能性が高く、津島版画が近代まで津島の地域において親しまれていたことが示唆されたが、再摺に用いられた板木は未だ見つかっておらず、誰の企画によって再摺されたのかは明らかになっていない。 また、本年度調査した団扇形式の津島版画の中に尾張藩主に献上した団扇と図像が近似した版画が確認され、赤色の箇所からSとHgが検出され、朱の使用を推定した。当該箇所にはベニバナと思われる赤色色材も使用されていると考えられ、ベニバナと朱の混合する技法は、1859年以降に増加することが先行研究により明らかになっている。献上団扇は文化9年に制作されたが安政7年(1860年)に再刻されており、色材調査の結果によって本資料は再刻した板木によって摺られた団扇絵である可能性が出てきた。再刻された板木は津島神社に現存しており、板木の彫面を詳細に調査することで団扇絵が安政7年に再刻された板木で摺られたされたものであるか確定できると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナ感染症の状況から、津島版画を収蔵する施設での調査の機会を減らしたため。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は見送っていた収蔵施設への調査を行い、調査資料を増やすことで津島版画の技法材料の特徴と制作年代別の特徴を明らかにする。 また、現地における調査の充実に加え、再摺によって当初の彩色層が確認できなくなっている版木から微量の彩色層のサンプリングを行い、クロスセクションの作製と分析によって当初の彩色が残留しているかを調査する。本年度は最終年度となるため、研究成果を冊子としてまとめ、関係者へ配布する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画していた津島版画収蔵施設での現地調査が減少したため出張費および機材郵送費分の費用に余りが生じた。本年度は現地における調査の充実と再摺によって当初の彩色層が確認できなくなっている版木から彩色層のサンプリングを行い、クロスセクションの作製と分析によって当初の彩色が残留しているか調査する。本年度は最終年度となるため、研究成果を冊子としてまとめ、関係者へ配布する。
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