研究課題/領域番号 |
20K12864
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
礒谷 有亮 京都産業大学, 文化学部, 助教 (70845304)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 写真史 / フランス / 美術史 / 両世界大戦間期 / モダニズム |
研究実績の概要 |
本年度も昨年度に引き続きコロナ禍のため海外渡航がかなわず、予定していたフランスでの一次資料調査が行えなかった。そのため二次資料およびデジタル化された資料の収集・分析が中心となった。 研究計画に従い、2021年度は戦間期のフランスでモダニズム写真の担い手とされてきた写真家や出版社に焦点を絞り、彼らが19世紀的な写真理解や撮影方法に必ずしも否定的でなかったことを明らかにすべく研究を進めた。 特に批評言説の分析に注力し、モダニズム写真の記念碑的著作とされてきた写真集『フォトグラフィ』(1930年)に、批評家のヴァルドマール・ジョルジュが寄稿した論考「写真 世界の視覚」を考察の軸とした。この論考では機械化時代に合わせた写真の用途の拡張について幅広く述べられる一方で、写真とは撮影者の主観を反映する芸術である、という旧来の芸術写真と共通する視点が維持されていた。こうした視点は昨年度考察したフランス写真協会をはじめとする保守的な組織とも共通する態度であり、これまで進歩的とされてきた媒体においても、写真の存在論的な理解がモダニズム到来以前から変化していなかったことを示している。また、当時の写真集、写真雑誌、アマチュア写真家向けのマニュアル等の出版物においても1930年代を通して、同様の態度がしばしば見られることも明らかになった。昨年度の研究成果を加味すると、1930年代のフランスの写真批評においては、保守的か進歩的かを問わず、写真=芸術という態度が支配的であったことが指摘できる。 この成果については昨年度の調査内容と合わせ、アマチュア写真家向け雑誌『フォトシネグラフィ』(1933年-1936年)を中心とした論考としてまとめ投稿を完了しており、2022年度中の刊行が予定されている。加えて、考察対象とした写真家の一人、ロジェ・シャルについても論文を執筆し、2022年7月に刊行が確定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍のため、本研究計画の核である渡欧しての現地一次資料調査を二年連続で行うことができなかった。二次資料やオンラインで手に入る資料を中心に進められる部分もあるが、議論の決定的な要素となりうる未公刊のアーカイヴ資料を欠いており、研究に遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画に従うと、2021年度までにフランスでの調査を完了し、最終年度の2022年度にはアメリカで現地調査を行う予定だった。しかし昨年、一昨年と渡航がかなわず、2021年度までに行う予定だったフランスでの資料調査が完了していないため、助成期間の延長申請を視野に入れている。 昨今の欧米の状況を鑑み、今後は渡航可能であるという前提に立ち、2022年度はフランスに渡航しフランス国立図書館をはじめとする図書館やアーカイヴで一次資料調査を行い、昨年度までの研究内容を完成させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により海外への渡航が制限され、予定していたフランスでの現地調査が行えず、当初計上していた旅費を使用することができなかった。残額についてはその一部を来年度の旅費に追加して割り当てるとともに、図書資料、デジタル資料の購入・取寄費として使用する。
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