研究課題/領域番号 |
20K12872
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館 |
研究代表者 |
西木 政統 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, 学芸研究部, 研究員 (90740499)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 仏像 / 模刻 / 模像 / 天台宗 / 最澄 / 薬師如来 / 薬師信仰 |
研究実績の概要 |
伝教大師最澄の自刻伝承をもつ、比叡山延暦寺根本中堂本尊の薬師如来立像は、現存しないものの、古来その名が広く知られ、模刻の対象となった。他にも、比叡山横川中堂本尊の聖観音菩薩立像や、園城寺の黄不動尊像など、天台宗では信仰を集めた霊像を模刻することが多い。本研究は、史料上に知られる模刻の事例を収集・分析し、あわせて模像作品に対して調査を実施することで、天台宗の模刻を通した新たな視点から、中世仏教形成の一端を探るものである。 2020年度は、天台宗における信仰の中核である根本中堂本尊像について、あらためて史料を整理し、現存する遺品との関係について考察を行った(西木政統「天台宗における模刻の意義――比叡山延暦寺根本中堂の薬師如来立像を中心に――」『哲学』148、三田哲学会、2021年度刊行予定)。また、過去調査を行った鎌倉・明王院の薬師如来坐像についても、詳しく図像を検討した結果、根本中堂本尊の異説を典拠とする可能性が見出された。これについてもすでに脱稿しており、近く発表予定である。 なお、現在は独立して単立となるものの、関東有数の天台寺院として栄えた浅草寺について、代表者は2012~17年にかけて文化財調査に関わり、報告書(浅草寺什宝研究会編『浅草寺什宝目録』第1巻 彫刻編、金龍山浅草寺、2018年)も執筆したが、このほど勤務先である東京国立博物館が一部の尊像の寄託を受けることとなった。これらについては再調査を実施し、2021年度に特集展示「浅草寺のみほとけ」を開催する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は、天台宗における信仰の中核となった比叡山延暦寺根本中堂本尊の薬師如来立像についてあらためて史料を整理し、現存する遺品との関係について考察を行った(西木政統「天台宗における模刻の意義――比叡山延暦寺根本中堂の薬師如来立像を中心に――」『哲学』148、三田哲学会、2021年度刊行予定)。代表者は、これまでも根本中堂本尊について考察を行ってきたが、本稿が現時点で最新の知見を反映したものとなる。 また、鎌倉・明王院の薬師如来坐像など、関連する研究の発表を予定しつつ、勤務先の東京国立博物館で2021年度に開催予定の特別展「最澄と天台宗のすべて」、特集展示「浅草寺のみほとけ」における実地調査の準備も行った。したがって、研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
天台宗における仏像の信仰において、やはりもっとも重要なのは最澄自刻伝承をもつ比叡山延暦寺根本中堂本尊の薬師如来立像である。今後も薬師如来像の図像と造形に注意しつつ、その周辺の遺品にも考察の対象を広げていきたい。まずは全体像を把握するために、さらに作品データや文献史料の収集に努める。新型コロナウイルス感染症の感染状況によっては、遠方での調査は延期し、勤務先である東京国立博物館の館蔵品や寄託品、展覧会等の借用品に対象を限定して調査を実施したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年9月~21年3月までの9か月間、育児休業を取得したため、おもに調査機材等の物品費と旅費が消化できなかった。また、在職中も新型コロナウイルス感染症の感染拡大のため、出張を自粛せざるを得ず、これにかかる物品費や旅費については来年度以降、感染状況に注意して、勤務先の方針に従いながら消化する予定である。
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