本研究の目的は、明末清初(17世紀)に安徽地方で確立した絵画様式「安徽派」について、①画風の選択意図、②人的交流、③郷里への顕彰意識、という3つの観点から主に考察し、その形成と発展の実相を明らかにすることにある。本研究は、絵画を生み出す「場」の重要性という、美術史上の普遍的課題について、16~18世紀の中国江南地方の事例を提示するものともなると考える。 本年度は、初年度(令和2年[2020]度)に開催した展覧会「特別展 墨の天地-中国 安徽地方の美術―」(於大和文華館)以降、蓄積してきた研究成果を継承・発展させ、研究上重要な画家や作品についての作品調査と史料収集を継続的におこなった。その成果は、主に学会発表(都甲さやか「清時代の倣古の一様相-査士標「倣黄公望富春山居図巻」(東京国立博物館蔵)についてー」第76回美術史学会全国大会、於九州大学伊都キャンパス、2023年5月27日)や、研究論文(都甲さやか「李流芳「江山楼閣図巻」(澄懐堂美術館蔵)について」『大和文華』145号、大和文華館、2024年6月刊行予定)などとして結実した。 本年度までの研究を通して、17世紀に「安徽派」が確立する以前の醸成期の実相、そして17~18世紀の中国江南の各地方で活動する画家たちが、互いを意識しながらそれぞれ地元特有の個性的な絵画様式を確立していったことを、「安徽派」という視座から明らかにすることができた。 今後は、本課題の4年間の成果をもとに考察を深め、新たに特別展「明末清初江南の絵画-金陵派の精華-(仮)」展(2028年度開催予定、於大和文華館)を企画開催し、公にその研究成果を広めたいと考えている。
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