研究課題/領域番号 |
20K12886
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研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
牧 奈歩美 東京藝術大学, 大学院映像研究科, 講師 (80626888)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | VR / 全方位映像 / 絵画表現 |
研究実績の概要 |
本研究では、全方位映像において一次元を象徴する線やマチエールを有する絵画表現に着目し、画材の物質的な視覚表現の有効性を検証し、方法論の確立と一般化を目的としている。物理世界の法則を超越した空間表現が可能な手描きによる絵画表現に焦点を当てることで、これまで全方位映像における創作研究が対象としきれていなかった観点から、新しい方法論構築への寄与を目指している。 2020年度は、描く寸法とスケール感覚・距離感覚の相対関係を明らかにするための対象としてエクイレクタングラー形式の画像作成を複数作成した。異なる寸法の人物が、従来の平面映像における撮影サイズ(「ミディアムショット」他全6種)のうち、どれに最も近く該当すると感じるか、また対象がどのくらいの距離に位置すると感じるかを解明するための素材を作成した。また、実験のための被験者に対する質問紙の作成も行った。 2020年11月にはアルゼンチンのマール・デル・プラタ国際映画祭のマスタークラス&パネルディスカッション「Immersive cinema | Future gazes」にて本研究の研究目的と手法について発表し、他登壇者とともにディスカッションを行った。現在VRの主流であるリアルタイムレンダリング方式による6Dofの表現と異なり、本研究を対象としている3Dofの形式では固定された視点から360度方向を観察するため、より絵画的マチエール表現が有効である可能性がありうるとの知見が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度の計画は、主として描く寸法とスケール感覚・距離感覚の相対関係を明らかにするための対象としてエクイレクタングラー形式の画像作成を作成することだった。画像の確認のためにはヘッドマウントディスプレイを装着する必要があったが、今年度は新型コロナウィルス感染症の影響で学内への入室に制限があったことから、積極的に協力者による補助を得ることが難しかたっため作業に遅れが出てしまった。また、同様の影響で、被験者にヘッドマウントディスプレイを装着してもらっての実験も接触による危険が大きいことから延期となった。しかし、2020年度末に実施した展覧会の経験から、ヘッドマウントディスプレイを使用する際の感染対策についてのノウハウも習得したことから、次年度には実施できる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度の研究を踏まえ、2021年度は引き続き描く寸法とスケール感覚・距離感覚の相対関係の調査研究とともに、1次元を象徴する線やマチエールによる表現がもたらす絵画的特質が全方位映像においてどのような影響を及ぼすかを調査する。調査対象とする絵画は、申請者が制作した作品で実践したドローイングの中から、異なる画材(鉛筆、木炭、水彩)と、それぞれの特徴的なマチエールや線表現を有するシーンを選定する予定である。 またこれと同時に、筆者が担当する演習科目でも本研究で対象としている絵画的VR表現を演習課題として実施し、平面映像との空間知覚の差異についての事例研究を深める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の影響で、2020年度3月に予定していた実験などが延期となり、一部計画を変更し、エクイレクタングラー形式も画像作成を中心に研究を行ったため、未使用額が生じた。このため、現在の社会状況を鑑みながら今後の実験方法などを検討し、未使用額はその経費に充てることとしたい。
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