研究課題/領域番号 |
20K12898
|
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
久保 豊 金沢大学, 歴史言語文化学系, 准教授 (30822514)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 商業映画 / エイジング / 若さと老い / 役者 / 映画雑誌 / クィア / ジェンダー / セクシュアリティ |
研究実績の概要 |
1990年代初頭から2006年までの『キネマ旬報』を対象に、日本映画に見られる若さや老いの描写に対してどのような批評言説が築かれていたかを調査した。その中でも特に、批評家による選出と読者による選出による「『キネマ旬報』ベスト・テン」でそれぞれ選ばれた作品群について書かれた批評言説を収集し、調査を行った。 映画女優と老いの演技に関する論文「「渋ジイ」が描く女性の老い──『もず』の淡島千景を代表例に」を『渋谷実 巨匠にして異端』(志村三代子・角尾宣信編、水声社、2020年)に執筆した。若い身体の躍動さと老いた身体の「役に立たなさ」に着目し、セレブリティ研究とエイジング研究の知見を映画分析に援用することによって、渋谷実作品で映画デビューした女優・淡島千景の実年齢的な若さと老いが複数の渋谷作品において変化していくかを考察した。『キネマ旬報』の批評を出発点に、映画女優が年齢を重ねることで荷わされていく役割の変化をジェンダーとセクシュアティの視点から分析した点に意義があると言える。1990年代初頭の『キネマ旬報』に寄せられた読者投稿に見られた男性同性愛者のエイジングに関する記述に着目し、男性同性愛者たちが歳を重ねる過程、あるいは誰かと歳を重ねたいと未来を想像する際に直面する家族や子育ての問題を薔薇族映画がどのように描いたかについて分析した「SOMEDAYを夢見て──薔薇族映画「ぼくらの」三部作が描く男性同性愛者の世代」を『クィア・シネマ・スタディーズ』(仮)(菅野優香編、晃洋書房、2021年刊行予定)へ寄稿した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ポピュラーカルチャーに対するエイジング研究の最新動向については、古典的な言説も含め、基本的な論点や理論的な枠組みを検討の上、日本映画の事例に適用していく段階に到達した。2020年度後半に刊行されたエイジング関連の書籍・論文も既に収集を完了したため、引き続き理論面での強化を図る。 研究対象となる『キネマ旬報』へのアクセスが予定したペースよりも遅れている。新型コロナウイルス感染拡大予防を目的とした図書館施設の休館または入館人数制限が大きな要因であった。しかし、調査対象であるキネマ旬報ベスト・テン作品に関する批評言説を優先的に収集を行ったため、分析を含む研究自体はおおむね順調に進んでいると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
第二年度は、2007年から2015年までに刊行された『キネマ旬報』を主な分析対象として引き続き調査していく。2020年度に映像文化とエイジングに関する書籍や論文が複数刊行されたので、それらを参照し最新の知見を獲得しつつ、第一年度で得られた資料に加えて、新規収集資料にみる若さと老いの言説を精査していく。 また、青春映画をクィア映画理論を用いて分析する論文を進めており、2021年度内の投稿を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大により、(1)予定されていた学会がオンライン開催となり計上していた交通費が不要となったこと、また、(2)感染予防により資料調査補助員を雇用できなかったことが大きな理由である。第二年度にて、感染予防を徹底した環境で資料調査の補助員の雇用および英語論文の校正に使用を計画している。
|