研究実績の概要 |
第二年目は、2007年から2015年までに刊行された『キネマ旬報』を対象に、日本の商業映画に見られる若さや老いの描写に対してどのような批評言説が築かれていたかを調査した。調査対象の時期は、ちょうど日本映画産業がのちに「キラキラ青春映画」とカテゴライズされる青春映画を大量生産していった時期と重なる。青春映画は安定した興行成績を収めるなどある程度の成功を示したものの、批評家や読者の選出による「『キネマ旬報』ベスト・テン」ではいずれの作品も低評価にとどまった。この傾向は本研究が調査対象とする1994年からの傾向よりもさらに強い印象を与える。本研究の調査期間では、その変化の要因を判明させるには至らなかったものの、日本社会が高齢社会から超高齢社会、そして「人生百年時代」へと老いていく/衰退していくなかで、老いの経験を積極的に肯定する政治的原動力が映画批評や映画産業の中にも浸透している可能性を見出す視点を構築できた点で、本研究の重要性を果たせたと考える。 第一年目と第二年目の調査で得た知見を応用した研究実績の一部は以下の通り。"Fading away from the Screen: Cinematic Responses to Queer Ageing in Contemporary Japanese Cinema"(Japanese Visual Media: Politicizing the Screen edited by Jennifer Coates & Eyal Ben-Ari, Routledge, 2021)、「SOMEDAYを夢見て─薔薇族映画「ぼくら」三部作が描く男性同性愛者の世代」(『クィア・シネマ・スタディーズ』、菅野優香編、2021)、等。また、国際学会Society for Cinema and Media Studiesでのパネル発表も1本達成した。
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