研究課題/領域番号 |
20K12899
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
木原 圭翔 早稲田大学, 文学学術院, 講師(任期付) (30755731)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 古典的ハリウッド映画 / 映画理論 / 映画批評 / 映画産業 / スタジオ・システム |
研究実績の概要 |
本研究は「古典的ハリウッド映画」の物語様式を「エコノミー(economy)」の観点から調査・分析することを主な目的としている。ここで言う「エコノミー」とは、利益を得るために映画を製作する映画会社の「経済」活動を意味すると同時に、映画作品に見られる「物語叙述、語り(narration)」の「効率性」の両方の意味を指している。本研究では、作品分析を主とする既存の映画研究が蓄積してきた美学的方法論の中に、産業構造の仕組みを分析する経済学・経営学の視点を新たに導入することで、企業として利益を追求する映画会社の経営戦略と、商品としての映画作品が結果として担う芸術的価値にいかなる因果関係があるのかを 明らかにしていくことを目指している。新型コロナウイルスの影響により、当初想定していたアメリカの映画アーカイブが所蔵する映画産業に関する一次資料の調査が困難となったため、国内において実施可能な研究内容、すなわち、「古典的ハリウッド映画」と呼ばれる映画群を対象にした論者の思想を分析する方針へと変更を行い、研究を遂行した。具体的には哲学者スタンリー・カヴェルのハリウッド映画論をあらためて網羅的に精査し、古典的ハリウッド映画の典型的な美徳とされる「わかりやすさ」に潜む曖昧さの意味を重視する彼の独特の映画観客論の実態を考察した。また、古典的ハリウッド映画を先駆的に論じた映画批評家パーカー・タイラーの1940年代の書籍を精査し、効率的な語りが必然的に生み出す物語内容の曖昧性が、タイラー独自の精神分析的読解の前提となっている点を明らかにするとともに、彼の古典的ハリウッド映画論が有する歴史的意義について検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルスの影響により、2021年度から、映画製作産業に関する一次資料のアーカイヴ調査を第一の前提としていた本研究の方針は変更を余儀なくされた。代わりに別の視点から「古典的ハリウッド映画」概念の実態を精査すべく、同概念に該当する作品群を論じた論者の思想を読解する作業を行なっているが、本年度は想定していた対象論者(スタンリー・カヴェル、パーカー・タイラー)のうち前者の分しか成果としてまとめることができなかった。しかし、後者についても関連資料の収集を概ね終え、課題分析には着手できているため、2022年度中には研究成果として学会発表及び学術論文としてまとめていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
進捗状況でも記したように、現在、未だ新型コロナウイルスの影響で海外への出張調査が困難となっているため、当初の研究計画(製作に関連する内部資料などの一次資料調査に基づく映画産業側の実態考察)を大きく変更している。研究対象を受け手側の視点、すなわち、ハリウッド映画を主な対象としてきた映画論者の思想を調査・分析することで、古典的ハリウッド映画が体現する「エコノミー、効率性」の実態を明らかにしていきたいと考えている。具体的には、昨年度に引き続き、古典的ハリウッド映画を対象に独自の映画論を展開してきた、哲学者のスタンリー・カヴェルと映画批評家のパーカー・タイラーの論考を精査していく。なお、パーカー・タイラーの批評活動の考察については、コロナウイルスの状況の改善次第では、ニューヨーク公共図書館など、タイラー・コレクションを有するアーカイブ機関への海外出張を行い、一次資料を活用した調査を実施したい。
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