研究課題/領域番号 |
20K12921
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研究機関 | 群馬県立女子大学 |
研究代表者 |
室田 知香 群馬県立女子大学, 文学部, 准教授 (80650861)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 時間 / 小町 / 花の色 / 掛詞 / 連想 / いたづら / 身 / 世 |
研究実績の概要 |
研究計画調書において記した令和2(2020)年度の予定は、「「古る」「馴る」「飽く」の語彙調査の結果を再確認する。歌合や私撰集の用例調査を加える。新しい恋愛観の嚆矢ともいうべきものが見られる小町の歌々について注釈の再検討を行い、その文学史上の位置を考える糸口をつかむ。」ということであった。歌合や私撰集の用例調査はあまり進めることができなかったが、小町の代表歌「花の色はうつりにけりないたづらにわが身よにふるながめせしまに」及び「みるめなきわが身をうらをしらねばやかれなで海人の足たゆくくる」について注釈研究を進めることができた。前者については、論文を仕上げて投稿し、今年度刊行予定である(査読付)。後者についても論文を仕上げ、現在、投稿先を検討中である。 二つの論文における具体的な指摘やその重要性は以下とおりである。 ①小町の歌「花の色は…」をめぐる注釈史の盲点を指摘し、注釈上の問題点を整理した。その上で当該歌の解釈を検討し、人生の時間の枠への強烈な意識という点で中国漢詩文と共通する時間意識がたしかに見られること、また一方、「ながめ」という小町独自あるいは日本独自の空白の時間のようなものを描くところがあることを指摘した。一首の注釈作業を基として、〈時間〉という本研究の骨子とつながっていく問題を模索した論考である。 ②用例に基づき、小町の歌「みるめなき…」の語句のかかりうけを検討し、新しい解釈を示した。小町の歌では掛詞を媒介とした挿入句的修飾句の表現がしばしば用いられており、「花の色は…」も同様な挿入句的修飾句を含みこむ一首である。「花の色は…」が掛詞を媒介とした挿入句的修飾句の表現をこそ一首の眼目として詠作されたものであろうことを指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究において平安女性の新しい時間意識の表された歌の嚆矢ととらえている小町の歌「花の色はうつりにけりないたづらにわが身よにふるながめせしまに」について、中国漢詩からの影響や当該歌自体の独自性、文学史上の位置づけを確認することは、本研究においてぜひとも達成しなければならない重要な課題の一つであった。今年度はこの課題を研究の中心に据えて取り組んだ。注釈史を丁寧にひもとき、その盲点を探り、また、掛詞の性質という観点から小町の歌の特質を明らかにする、といった基礎的で着実な研究を行なった上で、この課題を進展させることができたことは、本研究の今後にとってたいへん有益な成果であるととらえている。 本研究で考察の主軸に据えている「古る」「馴る」「飽く」等の語彙について、より範囲を広げた用例調査を今年度行なう予定であったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、資料館等に赴いて索引類を利用して調査を進めることがたいへん難しい状況であった。しかし、上記の研究成果を得ることができ、全体として好もしい進捗状況となっていると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度の研究計画は、「「古る」「馴る」「飽く」を含む歌で注釈的研究を要すると思われる諸例の解釈の検討を行う。必要に応じ、写本レベルの調査を行なう。」としているが、昨年度できなかった歌合や私撰集の用例調査を先におこないたい。特に「飽く」の用例調査を中心に進めたい。その中で諸注釈書に解釈の揺れが見られる例など、注釈作業を進めるべき諸例が見出された場合には、その解釈の検討をおこなう。 あわせて、2020年度の研究から得た小町と中国漢詩文との共通性及び差異についての着眼点などを踏まえ、日本の古代文学と中国漢詩文の〈時間〉をめぐる表現の共通性や差異についてより柔軟な考察姿勢で分析的に斬り込めるところがないか、模索してみたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて在宅勤務が基本となり、大学への移動もしづらい状況であった。本研究課題に関連して購入する予定であった図書の設置場所も大学の個人研究室と考えていたが、大学に行くことができる頻度が低かったため、必要と思われる図書の選定・決定を延期した。また、資料の調査や学会出張のための旅費を見込んでいたが、これも新型コロナウイルス感染拡大の影響で移動が困難となったため、資料館や各図書館に出かけての調査はほぼ断念し、学会もオンライン開催となるなどし、旅費を使うことがなくなった。 2021年度は本務校が対面式授業をおこなうこととなったため、2020年度よりも大学に出校する頻度は高くなると思われる。機会をとらえて当初購入予定であった平安文学関係図書で基礎的な研究資料となるものをまず購入したい。旅費は依然として新型コロナウイルス感染拡大の影響から移動の困難な状況が続きそうなので使う見込みが薄いため、どうしても旅費として使えなさそうであるとなれば、図書購入などのかたちで利用することを検討したい。
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