研究課題/領域番号 |
20K12926
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研究機関 | 目白大学 |
研究代表者 |
那波 陽香 (森陽香) 目白大学, 外国語学部, 専任講師 (00845175)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 神話 / 万葉集 / 霊魂 / 民俗 / 信仰 / 上代文学 |
研究実績の概要 |
今年度は、大きく二つの研究を行った。 第一は、藝能学会の機関誌「年刊藝能」の28号に掲載予定(査読あり、諸般の事情により刊行が遅れているが、令和4年3月付で刊行される)の論文「万葉集と芸能(下)」を執筆・校了したことである。この論文はすでに刊行された「万葉集と芸能(上)」「同(中)」に続くもので、この論題の結論部にあたる。内容としては、『萬葉集』所収の歌について、歌が「作られた時点」と「披露された時点」とに分けて考えた場合、「作られた時点」においてどのような芸能性を見出すことができるかを考察したもので、歌が心の鬱結(わだかまり)を払うという機能を持つにいたった過程を明らかにした上で、それが「芸能」の本質に結び付くものであることを論じた。これは、歌や芸能というものが、人の心 ー 霊魂にどのように働きかけることができるのか、そしてそれを古代の日本人がどのように自覚していたのか、ということを問題にしている点で、大きな意味での「鎮魂」論の一環と位置付けている。ムスヒ・ムスビ神の信仰は、特にそれが「結び」として解釈されたと思われる鎮魂祭などにおいては、具体的に目に見える形での「鎮魂」を論じる重要な研究対象となるが、それ以外に、人の霊魂に対する潜在的な信仰が、どのように具体的な発露を得ていったかという点を問題にすることは、古代における霊魂信仰の体系的理解につながってくるものと考えている。 第二は、霊魂の具体的な形として、『萬葉集』における「人魂」を詠み込んだ歌などを扱った論文を執筆したことである。この論については、学会誌に掲載が決まっているが、現段階ではまだ締め切り期間内であるため、詳しい内容の公表は差し控えたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
査読ありの学会誌に、定期的に、本研究に関連する論文を掲載できている点でこの評価区分を選んだ。研究課題申請時の予定よりもコロナ禍が長引いており、民俗調査をする予定が大きく減ってしまったことが残念に思われる。しかしその代わりに、文献的な研究については深まってきている。目に見える成果として論文掲載に至ったもの以外にも、上代文献に限らず近現代の日本文学、あるいは民俗学、宗教学、歴史学、倫理学、社会学など、他分野の研究を参照し、霊魂信仰に関する資料を集めるとともに考え方の多様性を学ぶことができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまで『万葉集』を主な研究対象としてきたのに対し、『古事記』『日本書紀』まで視野を広げた研究をする予定である。具体的には、『古事記』冒頭の記述を丁寧に再検討すること、「神代」という言葉の明確な理解やその変遷について精査すること、この2つを成し遂げたい。これらを達成することによって、上代の諸文献から拾うことのできる霊魂信仰について、非常に多様な角度から(すなわち、神話など文献上に現れた神に対する信仰、鎮魂祭など具体的な祭祀における事例、「人魂」など具体的な霊魂信仰、また歌を詠んだり芸能をするといった霊魂信仰を背景にもつ行動事例など)、体系的な研究をまとめることに近づいて行けるはずだと考えている。
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