本研究は、『古事記』『日本書紀』『萬葉集』といった上代諸文献をとおして、文学成立の基礎にあると目される古代日本人が抱いていた「霊魂信仰」について、その体型的な理解と具体相とを明らかにすることを目指したものである。特に、古代信仰の中心に位置したムスヒ神・ムスビ神は「鎮魂」を司る神と考えられるため、霊魂信仰の諸相のなかでも「鎮魂」という側面に焦点を当て、主に『萬葉集』を資材として、歌と「鎮魂」との関わりについて考察した結果、「聞く」という普遍的な動作の意味、他界観、歌という文学そのものが保持している「鎮魂」の力、神観念の変遷などについて、明らかにすることができた。
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