研究課題/領域番号 |
20K12927
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研究機関 | 目白大学 |
研究代表者 |
山中 智省 目白大学, 人間学部, 専任講師 (10742851)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ライトノベル / 出版メディア / メディア史 / 文庫 / SF / マンガ / アニメ / ゲーム |
研究実績の概要 |
本研究ではライトノベルを、「若年層の読者たちを戦略的に獲得することを企図した出版メディア」と捉えた上で、2020年度については主に、その萌芽・誕生期(1970~80年代)の様相を把握すべく研究活動を進めてきた。具体的には、当時の若年層向け娯楽小説が複数のジャンル、メディア、文化と複合を果たしつつ、現在のライトノベルの源流をなしていった状況に着目して、①前述の複合状態をもたらしたと見られる出版社のレーベルとその周辺動向に関する調査、②当時の様相に詳しい編集者と作家に対するインタビュー調査、③調査・分析結果の報告、の3点を実施している。 ①では、朝日ソノラマのソノラマ文庫、角川書店の角川スニーカー文庫、富士見書房の富士見ファンタジア文庫などを対象に、各レーベルの刊行作品や母体・派生雑誌の収集と分析を行った。また、作家・作品の供給源でもあった当時のSF業界、マンガ・アニメ・ゲーム業界の動向を知る上で有用な文献についても調査を進めた。そして、特にソノラマ文庫に関しては、朝日ソノラマが主力メディアをソノシートから活字(小説)へと転換していくなかで、同レーベルが「出版メディアとしてのライトノベル」の特質を獲得する一方、1970~80年代の若年層向け娯楽小説の牽引役を担っていたことを明らかにしている。 ②では、富士見書房の編集者1名と作家1名へのインタビューを実施した。その結果得られた証言は、各人の同時代経験の内実に加え、1970年代以降に複数のジャンル、メディア、文化の諸動向が複雑に重なり合いながら、「出版メディアとしてのライトノベル」が萌芽・誕生していった経緯を把握する上で、極めて示唆に富むものであった。 ③ではソノラマ文庫の調査・分析結果をもとに、日本出版学会2020年度春秋合同研究発表会などにおいて個人研究発表を行い、今後の研究に資する多数の指摘・意見を参加者から得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究にとって初年度となる2020年度は、まず、研究の遂行に必要な電子機器の購入に加え、計画書等の審査を「目白大学人文社会科学系研究倫理審査委員会」に申請して承認を得るなど、今後の研究活動に備えた環境整備や倫理対策を実施した。その上で、初年度の主要な探究テーマであった「ライトノベルの萌芽・誕生期(1970~80年代)の様相」をめぐる研究に取り組んだ結果、各種文献の収集とインタビュー調査の実施はほぼ順調に進行し、とりわけ朝日ソノラマのソノラマ文庫に関する調査・分析結果については、所属する学会や研究会を通して報告を行っている。 しかしながら、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大以降、大学における遠隔授業の準備・実施に伴う研究時間の縮小や、国立国会図書館(東京本館)の臨時休館・入館制限による調査機会の減少などといった想定外の事態が生じたことを受けて、収集済み資料の詳細な分析や補填資料等の追加調査については、大幅な遅れを余儀なくされている。そのため当該年度では、調査・分析結果の報告がソノラマ文庫のみにとどまっており、また一方で、角川書店の角川スニーカー文庫、富士見書房の富士見ファンタジア文庫といった他レーベルに関しては、収集済み資料の検討などが依然として不十分なため、今後も継続的な調査・分析が必要な状況にある。したがって、萌芽・誕生期(1970~80年代)の様相把握が引き続きの研究課題となっていることから、現在までの進捗状況は「遅れている」と判断される。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度における本研究の進捗状況と成果を踏まえて、続く2021年度は萌芽・誕生期(1970~80年代)の様相のうち、角川スニーカー文庫や富士見ファンタジア文庫に関する調査・分析を継続して実施する。また、並行して当初の主要な研究テーマである「ライトノベルの確立期(1990~2000年代)の様相」をめぐる研究にも取り組み、今日的な「出版メディアとしてのライトノベル」の確立と、それらが若年層に波及していく状況に着目した調査・分析を行っていく。 1990~2000年代には、メディアワークスが1993年に創刊した電撃文庫をはじめ、角川書店や富士見書房などが創刊した先行レーベルの実績を踏襲しつつ、より戦略的かつ積極的に、若年層を小説の読者や作家として獲得することを企図したレーベルが複数登場している。したがって、新旧レーベルのコンセプトやマーケティング戦略の違いにも目を配りながら、各レーベルの刊行作品や母体・派生雑誌の収集と分析、編集者・作家・読者に対するインタビュー調査を行い、同時代の様相把握を目指していく。また、若年層に対するライトノベルの波及状況に関しては、読書実態の経年調査として知られる「読書世論調査」「学校読書調査」「『朝の読書』の人気本調査」等の調査結果に加え、雑誌の読者投稿欄や公募新人賞への投稿状況などからも把握を試みることとしたい。 調査・分析結果については、所属する学会や研究会での報告を順次行っていく。また、2020年度の成果は論文化の作業を進め、より広い社会に研究を還元していくことを目指す。なお、当初計画していた豪州日本研究学会(JSAA)での報告は、COVID-19の影響により海外への渡航可否が不透明な状況のため、見送ることも検討している。その代替措置としては、国内学会における報告機会をさらに増やすことにより、研究のさらなるブラッシュアップを図りたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度に実施したインタビュー調査2件はともに、録音の文字起こしを専門業者に委託することとなっていた。しかしながら、2件とも録音時間が当初の想定(1~1.5時間)を超える2時間前後となったため、文字起こしに必要な委託費用の総額に変更が生じ、2件目の文字起こしに際して予算がやや不足する事態となった。そのため、2件目の委託費用の不足分を2021年度に補填した上で、専門業者による文字起こしをあらためて実施することを目的に、今回、次年度使用額が生じたものである。
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