最終年度の研究実績として、学会発表「時代閉塞と形式破壊――田山花袋「罠」の読まれ方――」(全国大学国語国文学会第125回大会、2022年6月12日)と資料紹介「田山花袋「琴の音」――地方文芸誌『寿々夢詞』掲載の新体詩――」(『和洋国文研究』58号、2023年3月)がある。 前者の学会発表では、田山花袋の短編小説「罠」(『中央公論』1909年10月)を採り上げ、それが内容・形式ともに同時代の文学が抱えていた大きな問題、すなわち日露戦後から大逆事件に至る時期の社会の閉塞状況をどのような方法で形象化するかという問題を、典型的なかたちで包含する作品であったことを論証した。 後者の資料紹介では、田山花袋の新出の新体詩「琴の音」(『寿々夢詞』1903年9月)を翻刻、解題した。この作品自体は花袋の新体詩として突出したものではないが、花袋と地方文壇との接触を窺わせる資料として価値のあるものである。 研究期間全体の成果としては、花袋の平面描写論の下地となった桂園派歌論を、花袋周辺の文学者たちがいかに受容したかについて、明らかにできたことが挙げられる。特に初期花袋の盟友である太田玉茗の従来知られていなかった評論「桂園和歌論」(『国風』1896年3月~7月)を採り上げ、大西祝「香川景樹翁の歌論」(『国民之友』1892年8月~9月)との比較において、桂園歌論解釈の非合理主義的・形而上学的傾向を明らかにできたことが大きいと考える。その他に、三木露風がその詩論の展開において、大西の哲学書をいかに受容したかについても調査を行った。
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