研究課題/領域番号 |
20K12933
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
東野 陸 (李増先) 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 助教 (90755498)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 和刻本漢籍 / 在外日本古典籍 / ケンブリッジ大学図書館 / ロックハート / デジタルアーカイブ / 東アジア / 漢字文化圏 / 漢籍の享受 |
研究実績の概要 |
ジェームズ・スチュワード=ロックハート卿(1858-1937、ロックハート)はスコットランド出身のイギリスの外交官であった。1880年から40年間にわたり、書物や絵画などの美術品を蒐集した。ロックハートが没した1930年代のイギリス国内は大きな東洋研究のブームがあり、そのため旧蔵書はすぐに解体され、複数の研究機関に買収された。本研究対象はケンブリッジ大学図書館が購入したその一部である。そこに和刻本漢籍が含まれていることはすでに以前の研究で明らかになったが、和刻本漢籍とは明治以前に日本で出版された漢籍のことである。 スコットランド国立図書館(National Library of Scotland、NLS)にはLockhart Papersと受託された一群の資料があり、ロックハートが生前に残した書簡、未出版の原稿や手記などが含まれている。筆者はその中にロックハート自筆の旧蔵書目録を発見し、データ化に着手した。また、過年度までに作成したデジタルアーカイブを用い、メタデータの充実を実施してきた。それによって以下のことが明らかになった。 まず、研究対象の一部は佐賀藩須古鍋島家の旧蔵書に由来することが明らかになった。明治期の廃藩置県のため、藩校の旧蔵書が大量に流出したことが原因であると推定する。 次に、勧善書の存在も多く確認できた。勧善書とは明から清にかけ、中国で流行した儒・道・仏の三教の思想を習合した書物である。ロックハートは当時流行したほとんどの善書を蒐集したことを判明した。 そして、朝鮮漢籍の存在も確認できた。和刻本漢籍のように、朝鮮半島でもかつて多くの漢籍が出版されていた。その享受は朝鮮半島内のみならず、日本・中国でも需要があったことは以前から知られているが、本研究対象はその具体例としてケーススタディーに値することも言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は世界規模で流行した新型コロナウイルス感染症のため、海外への渡航が現在でも厳しく制限されており、本研究計画の一部である海外の文献調査やフィールドワークが実施できていない。可能な限り、作成したデジタルアーカイブやすでに入手した複製資料を用いて研究を進めてきたが、研究全般がやや遅れている状態である。
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今後の研究の推進方策 |
海外への渡航制限が長期的におよぶことを想定し、当初の研究計画を変更し、次年度以降の研究計画を以下のように変更する。 まず、海外渡航や人的移動を必要としない研究計画を繰り上げて実施する。具体的に、自筆目録および書簡などの一次資料のデータベース化および公開用デジタルアーカイブのメタデータの充実を中心に進める。 それから、自筆目録データベースとデジタルアーカイブの関連付けを行う。自筆目録や書簡などの一次資料は幸いなことに本研究開始前の2019年度にすでに入手したため、海外渡航が制限されている状態でも研究の遂行に必要最低限な資料はある。筆者はこれらの一次資料を用い、これまで手作業でデータ化を行ってきた。本年度にこれらの資料へのAI(人工知能)による手書き文字認識(Handwritten Text Recognition、HTR)の技術を適用できることが判明した。しかし、研究資料の一部は中国語・英語のバイリンガルで記述されているものもあり、その場合はうまく認識できない場合がほとんどである。そのため、研究資料を仕分け、単一言語で記されたものをAIによるHTRプログラムを用いてテキスト化を進めていくと同時に、一つ以上の言語で記述された資料は従来の手作業によるテキスト化を進める。 そして、海外渡航が必要な文献調査やフィールドワークなどの研究内容を最終年度で行うことに変更する。海外への渡航制限が解除されれば、フィールドワークの実施を早めることは可能である。しかし、いずれにしても、文献調査が実施可能な期間が短くなる。短期間で調査を実施可能にするには、事前にフィールドワークを行う対象を精査し、調査対象を絞るなど、当初の研究目的に達成できるように対策を講じる。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は新型コロナウイルス感染症の世界流行のため、海外渡航が厳しく制限され、本研究計画の一部である海外の文献調査やフィールドワークが実施できなかった。可能な限りデジタルアーカイブや複製資料を用いて研究を進めてきたが、人的移動が制限されており、本来執行予定であった海外の調査旅費などの支出がなかった。未使用額は2021年度の国内文献調査旅費、自筆目録データ化のためのアルバイト雇用、書簡資料HTRプログラムのシステム使用料および新たな研究資料収集のための書籍購入費・通信費・複写費・送料などとして繰り越す。
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