研究課題/領域番号 |
20K12933
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
東野 陸 (李増先) 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 助教 (90755498)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 和刻本漢籍 / 在外日本古典籍 / ケンブリッジ大学図書館 / ロックハート / デジタルアーカイブ / 東アジア / 漢字文化圏内 / 漢籍の享受 |
研究実績の概要 |
「漢籍」とは漢字・漢文によって記された書物だが、日本は早くから漢籍を輸入し、その複製に着手した。辛亥革命までに中国で刊行されたほとんどの漢籍を日本が複製した。このように、日本で覆刻・翻刻された「漢籍」は「和刻本漢籍(和刻本)」と呼ばれる。中国以外の国や地域で出版された漢文の書物は日本で「準漢籍」と呼ばれる。朝鮮半島やベトナムで出版されたものがこれに該当する。本研究が開始した当初は「和刻本」のみに注目したが、過年度までの研究は「準漢籍」も和刻本や漢籍並みに需要が多かったことを明らかにした。 本研究の対象はジェームズ・スチュワード=ロックハート卿(1858-1937、ロックハート)旧蔵書の一部、現在はケンブリッジ大学図書館の蔵書だ。筆者はスコットランド国立図書館(National Library of Scotland、NLS)にロックハートが残した自筆の旧蔵書目録を発見し、それをもとに、研究対象を特定し、デジタルアーカイブを作成した。ロックハートの没後にイギリス国内では東洋研究のブームが興り、旧蔵書は解体され、本研究対象はケンブリッジ大学図書館が購入した部分、「和刻本」や「準漢籍」が含まれることに注目されたい。 昨年度は自筆目録のデータ化と筆者が作成したデジタルアーカイブの関連付けを行った。自筆目録は英語・中国語の二言語の筆記体によって記されたインデックスカード、これに人工知能による手書き文字認識(Handwritten Text Recognition、HTR)の技術を適用し、解読を試みた。複数のツールやプログラムを利用したが、カードごとの保存状態や文字のレイアウトにかなりのばらつきが見られ、どの実験結果も理想的状態ではなかった。そのため、最終年度は自筆目録を手作業により文字に起こし、データベース化を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は新型コロナウイルス感染症の世界流行のため、海外への渡航が依然現実的ではなかった。本研究計画の一部である海外の文献調査やフィールドワークが実施できていない。筆者が作成したデジタルアーカイブやすでに入手した資料を用いて研究を進めたが、研究全般がやや遅れている状態である。
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今後の研究の推進方策 |
海外への渡航制限が長期的におよぶことを想定し、最終年度の研究計画を変更する。特に海外渡航や人的移動を必要としない研究から実施する。具体的に、筆者が入手した自筆目録および書簡など一次資料のデータ化を中心に進め、自筆目録のデータベースを構築し、筆者が制作したデジタルアーカイブとの関連付けを行う。自筆目録や書簡などは幸いなことに本研究開始前にすでに入手したため、海外への渡航制限が続いている状態でも研究の遂行に必要な資料は揃っている。 今年度に筆者がこれらの資料を用い、人工知能によるHTRの技術を適用できると予想したが、複数のツールやサービスを実験し、本研究資料への応用は見送られた。研究資料の多くは英語・中国語の二言語の筆記体によって記述されており、資料ごとの文字の書体やレイアウトが統一されておらず、資料ごとの文字部分のセグメンテーションがうまく認識できない。そのため、最終年度は手作業による文字起こしを進め、データベースの構築に着手する。 そして、可能なら最終年度内に海外への渡航制限が緩和されると資料調査やフィールドワークを行う。その場合は調査実施期間を短くし、調査実施対象を事前に精査するなど、当初の研究目的に達成できるように対策を講じる。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は新型コロナウイルス感染症の世界流行のため、海外への渡航は現実的ではなく、本研究計画の使用額の多くを占める海外の文献調査やフィールドワークが実施できなかった。すでに入手した資料を使用し、本来の研究目的を達成できるよう研究を進めてきたが、人的移動が制限されており、本来執行予定であった海外および国内の調査旅費の支出がなかった。未使用額は最終年度の研究対象の文字起こしのためのアルバイト雇用やデータベースの構築費用、また新たな研究資料収集のための書籍購入費・通信費・複写費・送料などとして繰り越す。
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