本研究はジェームズ・スチュワード=ロックハート卿(1858-1937、ロックハート)の旧蔵書を対象とする。ロックハートは1880年頃から約40年間、中国に外交官として滞在し、その間様々な資料を蒐集し、絵画・写真・書簡等の資料に交え、約1200タイトルの旧蔵書を残し、それの多くはケンブリッジ大学図書館に収蔵されている。それから、筆者はスコットランド国立図書館(National Library of Scotland、NLS)にロックハートが残した自筆の旧蔵書目録を発見し、研究対象を特定、デジタルアーカイブを作成した。ロックハートの没後にイギリス国内では政府主導の東洋研究の推進があり、ロックハートの旧蔵書はそのような歴史的背景の中で解体され、買収された経緯がある。 ロックハートの旧蔵書には「漢籍」をはじめ、「和刻本漢籍(和刻本)」「準漢籍」も含まれていることがこれまでの研究で明らかにした。「漢籍」とは漢字・漢文によって記された書物、日本は早くからそれを輸入し、辛亥革命までに中国で刊行されたほとんどの漢籍を日本が複製し、使用した。このように、日本で覆刻・翻刻された「漢籍」は「和刻本」と呼ばれる。中国以外の国や地域で出版された漢文の書物は日本で 「準漢籍」と呼ばれる。朝鮮半島やベトナムで出版されたものがこれに該当する。これまでの研究は「和刻本」と「準漢籍」の需要が多く確認できたが、昨年度はロックハートコレクションの成立経緯および「和刻本」をはじめとすす「準漢籍」の享受を確認することができた。 そして、今年度は自筆目録のデータ化作業を進捗しつつ、コロナ禍で停滞していたフィールドワークを実施、書簡等を精査した結果、コレクションの成立は自らの精力的な蒐集活動と共に、当時贈答品として和刻本が使われていた事を判明した。
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