研究課題/領域番号 |
20K12940
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研究機関 | 尚絅大学 |
研究代表者 |
山本 歩 尚絅大学, 文化言語学部, 助教 (90755092)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 小説作法 / 文章世界 / 日本文章学院 / 日本近代文学 / 投書雑誌 |
研究実績の概要 |
新潮社の通信教育期間「日本文章学院」の刊行物、ならびに博文館の投書雑誌『文章世界』を中心に、その文章・小説指導と、投書家たちの小説(的散文)の傾向について調査と検討を進めた。 「日本文章学院」の研究については、機関誌『新文壇』においてしばしば寄稿・再録・紹介等のある小川未明について調査・考察した。具体的には、『新文壇』を初出とする「動く絵と新しき夢幻」をはじめとした未明の指導と、同誌のポスト自然主義的な文章指導、同時期に未明の著作を発売した新潮社の購買戦略の折衷により、未明がロールモデルとして提示され、投書家に一定の影響を与えていたことを確認した。 また、認知心理学、主に創造性(creativity)の発達についての研究にも注目し、投書文化の中の指導や実作を〈mini-c creativity〉に関わるものとして評価する展望を得た。継続的に創作を続ける投書家が指導を踏まえ試行錯誤していく例として、後に土師清二として活躍する赤松静太の『新文壇』投書作を調査している。赤松は初期から複数の文章ジャンルや文章表現を試みる「熟達」を行っていると言える。 ロールモデルを提示しながら具体的な練達の階梯を示す「日本文章学院」刊行物に対し、『文章世界』の文章・小説指導は経験談を中心に抽象的・感覚的な表現、すなわち〈小説が書けるとはどのような状態か〉を説明するものが多い。主筆かつ中心的な指導者であった田山花袋の記事にそれは顕著である。だが上記の創造性研究の知見を踏まえれば、こうした抽象的な指導にも意義を見出せると思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は新型コロナウイルス感染拡大により満足な調査が行えず「遅れている」とした。2021年度はわずかながら調査を実施することができ、他分野の知識を援用することにより、展開の方向性が定まりつつあるため、遅れを取り戻すことができたため、「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルスに関わる情勢に即しながら、遠方での文献調査を再開したい。また明治後期~大正前期の小説指導言説についてまとめると共に、大正後期の小説作法書について検討していく予定である(主に、2020年度の調査遅延によりおろそかになっていた大正期の刊行物に関わる調査を実施する)。
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次年度使用額が生じた理由 |
調査等で予定されていた旅費が、新型コロナウイルス感染拡大の影響により使用できなかったため。
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