研究課題
本年度は、これまで収集した文献記録データをもとに、奥三河の太夫家の近世期における在地宗教者としての活動や、祭文の地域的展開について研究を行った。小林地区の太夫家が近世期に陰陽師の身分を得ていたことや、継目に際して土御門家家司や三河国触頭と行ったやり取りについては、「奧三河花祭りと陰陽師―東栄町小林地区の花太夫を中心に」(梅田千尋編『新陰陽道叢書 第3巻 近世』名著出版,2021年5月)にて報告した。本稿では、奥三河地域と本所である土御門家との繋がりを双方の史料より示し、土御門家の諸国陰陽師支配における奥三河地域の具体的状況について明らかにした。また、奥三河地域の神楽や宗教儀礼に関わる文献研究の近年の状況、特に特別展「奥三河のくらしと花祭・田楽」(開催:2013年,主催:名古屋市博物館・愛知県教育委員会)の奥三河研究における意義については、「民俗社会の信仰と知識―奥三河宗教文献研究の現在」(近本謙介編『ことば・ほとけ・図像の交響―法会・儀礼とアーカイヴ』勉誠出版,2022年3月)にて報告した。本稿では、奥三河地域の民俗文化についての研究の蓄積をふまえ、現在活発に進められている在地資料研究の状況について詳述した。加えて、伝承文学研究会7月例会(名古屋・京都)にて、口頭発表「儀礼詞章のなかの<語り>―豊根村山内地区の鍵取り屋敷文献を中心に―」(2021年7月25日,オンライン開催)を行い、奥三河地域の『大土公神祭文』の展開と、豊根村山内地区に伝えられる祭文の説話の特徴について報告した。
2: おおむね順調に進展している
緊急事態宣言ほかの国内移動自粛により、新たな調査を行うことはできなかった。その代わりに、前年度に刊行した文献資料集『奥三河宗教文献資料集―陰陽道と民俗信仰―』やこれまで収集した調査記録などにもとづく資料整理や文献研究を行い、研究成果の報告や次年度以降の研究準備を進めることができた。
今後は『大土公神祭文』をはじめとする祭文の研究を行う。奥三河地域内の写本を整理して報告すると共に、その内容上の特徴を明らかにする。また奥三河地域以外の事例についても取り上げ、説話の比較研究を行う。また、近世期の占いやまじないなどの民俗知識について、写本をもとに研究を進める。加えて、地元自治体と協力し、文献記録の調査や研究成果の社会還元を行う。
購入予定の消耗品の納入時期に変更が生じ、購入を見合わせたことで、次年度使用額が生じた。次年度に改めて購入する予定である。
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