①中国河北省承徳市において開催された国際学術会議・楽府学会第六届年会第九届楽府歌詩国際学術研討会において、「元シン〔禾+眞〕的楽府与音楽・楽器・楽人」と題して論文投稿、口頭発表を行った(河北師範大学、2023年08月27日)。本発表では元シン〔禾+眞〕の「琵琶歌」「何満子歌」を中心として、元シン〔禾+眞〕の楽府における音楽的作品の特徴と、音楽的故事の継承についてまとめた。 ②『九州中国学会報』第62巻に論文「元シン〔禾+眞〕の「霓裳羽衣譜」について」を投稿し、掲載された(2024年4月25日発行)。本論文では、現在は失われた元シン〔禾+眞〕の「霓裳羽衣譜」の様態に接近を試み、元シン〔禾+眞〕と白居易の音楽的交流、音楽に関する議論の一端を明らかにした。霓裳羽衣曲という芸術音楽の継承について、元シン〔禾+眞〕は音楽を実際の演奏によってではなく、歌詩(楽府)によって物語として記録・継承しようとしたことを明らかにした。 ③以上の論考から明らかになったこととして、「史才」「史筆」「実録」の語が重要なキーワードとなることを指摘できる。これらの語は本来、歴史記述あるいは伝奇小説を評価するときに用いられる語であるが、白居易はしばしば元シン〔禾+眞〕の歌詩(楽府)について、「実録」という観点からその「史才」を評価している。従って、唐代の歌詩(楽府)と小説とは、「史才」「史筆」という観点から密接に連関を保ちつつ、物語の継承と発展とを促していたことがうかがえる。 ④また、以上の成果から見えた課題として、宋代以降の中国文学史、日本古典文学史への影響に関しては考察が行き届かなかった点が挙げられる。加えて、物語研究の視点として、ナラトロジーの理論が歌詩(楽府)に応用できるのかという課題も未だ検討が及んでいないため、今後の課題とする。
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