研究課題/領域番号 |
20K12950
|
研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
松崎 寛子 日本大学, 文理学部, 研究員 (10820946)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 台湾文学 / 児童文学 / 環境問題 / 郷土想像 / アイデンティティ |
研究実績の概要 |
台湾は、オランダ、鄭成功政権、清朝、日本植民統治、国民党一党独裁と、外来政権による支配を受けたが、1980年代末に民主化を達成すると、環境問題、エスニシティ、移民、LGBT、ジェンダー等の人権問題も重視されるようになり、台湾アイデンティティは今もなお多様化し、変化し続けている。児童文学は、中華民国、そして郷土台湾の、アイデンティティ形成に大きな役割を果たしてきた。 本研究は、台湾の歴史背景と台湾を取り巻く国際関係を考慮しつつ、台湾児童文学作家達は、どのように「国家」や「台湾」への郷土想像を創造しながら、その意識を環境問題へと繋げて描き、子供達に「郷土」における「環境問題」を伝えているかを解明する。各時代の台湾児童文学における「郷土」の描かれ方を分析し、それがどのように環境問題と結びついていったかを考察し、台湾児童文学の新たな系譜を提示する。本研究では、戦後台湾児童文学における「郷土」表象の手法とその意義を問い直し、台湾の「郷土」意識がどのように環境保護意識へと発展していったかを明らかにする。戦後台湾の児童文学が国家アイデンティティ形成に果たした役割は大きい。本研究では、民主化運動と環境保護運動が台湾の社会において結びついた背景を視野に入れ、戦後台湾児童文学における「郷土」意識の変遷と環境保護意識への発展について考察している。 当該年度では、2022年5月に日本台湾学会学術大会で「幸佳慧の児童文学にみる記憶の語りとエコクリティシズム:鄭清文の児童文学との比較から」というテーマで研究報告を行った。2022年6月にはACLA Annual Conferenceで"Travel to Seek the Absent Taiwanese Fathers and the Violent Japanese Mothers"というテーマで研究報告を英語で行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は、民主化以降(1996年から現在)における児童文学の環境問題をテーマにした作品を分析し、彼らの「郷土」表象は、民主化運動期の郷土作家達が描いた「郷土」とどのように違うのか、分析した。具体的には、児童文学作品において環境問題や人権問題をテーマにした幸佳慧の作品に注目し、同時代の呉明益や伊格言などのSF文学における環境問題の提起との関連性にも目を配った。台湾に渡航し、台湾国家図書館、台湾大学図書館、吉祥巷工作室で資料収集を行う予定であったが、コロナ禍による渡航制限により現地での調査を行うことはできなかった。しかし、オンラインリソースを利用して、アーカイブ資料調査やオンラインで研究打合せをすることはできた。また、元々渡航を予定していた国際学会への参加は、すべてオンラインに切り替わったが、研究発表の成果は上げることができた。 具体的には、2022年5月に日本台湾学会学術大会で「幸佳慧の児童文学にみる記憶の語りとエコクリティシズム:鄭清文の児童文学との比較から」というテーマで研究報告を行った。2022年6月にはACLA Annual Conferenceで"Travel to Seek the Absent Taiwanese Fathers and the Violent Japanese Mothers"というテーマで研究報告を英語で行った。 また、張文菁著『通俗小説からみる文学史 1950年代台湾の反共と恋愛』(法政大学出版局、2022年)に対する書評「通俗恋愛小説ができるまで―台湾の人々の読書史に一石を投じるー」を執筆し、2023年6月『日本台湾学会報』第25号に掲載される予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
コロナ禍で現地調査、現地での資料収集、打ち合わせ等が滞っているので、渡航制限が解除された現在、台湾での現地調査(台湾国家図書館、台湾大学図書館、吉祥巷工作室等)を行う。ハーヴァード図書館、ニューヨーク州立大学図書館、エモリー大学図書館等、米国の図書館に保存されている資料を調査する。また台湾国家図書館、台湾大学図書館、吉祥巷工作室等作室で資料収集を行う。 また、日本統治時代における日本人及び台湾人作家による児童文学作品における台湾の「郷土」表象と戦後台湾における「郷土」表象とを比較し、現代台湾児童文学作品における環境問題への影響を考察する。具体的には、日本統治時代に活躍した台湾の少女作家、黄氏鳳姿が描いた台湾の「郷土」表象、及び後にまど・みちおとして著名な童謡作家となる石田道夫が植民地台湾滞在中に発表した作品に見る日本人の視点からの台湾「郷土」表象に注目し、戦後台湾の作家達、特に日本統治時代に幼少期を過ごした鄭清文等にどのような影響を与えたか、それが戦後児童文学における環境保護意識への提示とどのように関わったかを考察する。 また、2023年6月には、『郷土文学と越境』をテーマにした国際シンポジウムを日本・台湾・米国から研究者を招いて主催する予定である。8月にはUniversity of California, Santa Barbaraで開催されるInternational Research Society for Children's Literature Congress 2023で研究成果を発表する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍による渡航制限により、本来予定していた台湾への渡航が行えなかった。また予定していた学会への参加もすべてオンラインに切り替わり、旅費や現地調査等に伴う経費は使用しなかった。 本年度は、渡航制限も排除されたため、現地調査や現地打ち合わせを行い、海外への学会に参加して、これらの未使用分を使用する。具体的には、渡航経費(日本ー台湾間及び日本ー米国間の航空券、宿泊費、現地移動のための旅費・交通費)、現地調査とその整理に伴う物品費(ノートパソコン、ボイススレーダー、タブレット型)、印刷費、論文報告の際の人件費(外国語校正費)に使用する。
|