研究課題/領域番号 |
20K12952
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
五十嵐 奈央 宇都宮大学, 共同教育学部, 助教 (50868346)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ルイ・マクニース / 20世紀 |
研究実績の概要 |
2023年度は、個々のジャンルや詩人に着目したこれまでの研究からさらに視野を広げ、20世紀詩人たちの相互影響関係を見ることを通じて、詩の形式やジャンルの使用および詩的伝統に関する考察を深めた。 1)中心的な研究対象としてきた詩人ルイ・マクニースの作品における、特徴的なイメージや表現およびそれらの初期から中期にかけての変化についてより理解するために、初期の作品に多大な影響を及ぼしたと考えられるイーディス・シットウェルの作品と、中期以降のマクニースの詩論に変化をもたらしたと推測できるディラン・トマスの作品を、マクニース作品と比較分析した。シットウェルとトマスは、それぞれが独自の詩的世界を築いているものの、イメージや音、リズムを純粋に詩的要素として捉え発展させているという共通点がある。その点で、詩人の社会的役割を重視し、詩のイメージや主題を現実世界に見出すマクニースの作品とは大きな違いがあるように考えられている。しかし研究を進め、シットウェルの詩に見られる共感覚的イメージや、単調にも捉えられがちな反復、トマスの詩における一見抽象的なイメージや表現は、それぞれ初期、中期以降のマクニース作品にも使用されていること、マクニースが自身の詩を確立するなかで、シットウェルとトマスの詩作に共通して見られる、生きた(可変的な)存在としての詩という概念を発展させたことを明らかにした。 2)マクニース固有の詩および芸術観をより完全に理解する上で重要なロマン主義との関係についての研究にも着手した。マクニース詩の特徴であるとされてきた、社会と詩人/個人/芸術の間での揺れ動きそのものが、ロマン主義以来、詩人が抱えてきたジレンマを受け継いでいることが、特に詩および生の根源的価値を詩の中で模索するようになった1940年代以降の作品を詳しく分析するなかで明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
戦争詩との関連におけるエレジーや祈りの研究から発展し、20世紀詩人の相互影響関係や、ロマン主義とその流れを汲む20世紀詩人たちの研究にも着手しており、概ね計画通りに進んでいる。 1)ルイ・マクニースとイーディス・シットウェル、ディラン・トマスの比較研究については、2023年10月28、29日に開催されたIASIL Japanの国際大会(The 39th International Conference of IASIL Japan)で研究発表を行った。 2)ルイ・マクニースとロマン主義に関する研究成果は、2023年度より準備を進め、2024年5月4、5日開催された日本英文学会第96回全国大会のシンポジアム第2部門「『長いロマン主義』とモダニティ」で登壇者の1人として発表した。 これまで研究発表を行ったテーマについては、論文にまとめ、国際的学術誌や、国内でのより広い研究成果の公開のため、所属大学の研究紀要に投稿することを考えている。 ただ、学術論文にまとめるためには一次資料を改めて深く読み込むことだけでなく、先行研究における議論ももう一度確認しなければならず、さらに時間をかけて丁寧に研究を進める必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
まず、これまでの研究で、研究発表の後まだ学術論文として発表していないテーマ、1)エレジーとしての2つの大戦詩の比較考察、2)イディス・シットウェル、ルイ・マクニース、ディラン・トマスの比較研究、3)ルイ・マクニースとロマン主義の比較研究、をそれぞれ論文にまとめ、国際的学術誌や所属大学の研究紀要へ投稿する。 また、上記2)3)の研究テーマにおいては、ルイ・マクニースのAutumn Sequelという作品が重要な位置を占める。そのため、Autumn Sequelの作品研究を進め、学術論文にまとめることを計画している。Autumn Sequelはマクニースが関わっていたラジオ番組製作との関連も深い作品である。博士論文の執筆時にも訪れたイギリスのBBCアーカイブに赴き、改めてAutumn Sequelのラジオ放送やその関連資料にあたる必要もある。 さらに、2024年9月に、所属している「英詩研究会」と共催で、詩と風景に関するオムニバス形式の発表を実施する企画を進めている。風景には心象風景や文学史的潮流といった、視覚的に認識可能な風景以外のものも含まれており、本研究の課題である詩の伝統的形式・ジャンルや、詩人の自意識も広義の文学的風景とみなす。20世紀戦争詩の発表を担当する予定で、他の時代の英詩研究者たちを招聘し、発表してもらうことになっている。様々な時代の詩に関する発表や研究者たちとの議論を通じて、本研究の文学史的視座をさらに高めたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度は、すでに発表が決まっていた国内開催の2つの学会(2023年国際学会、2024年全国大会)での研究発表を見据え、研究を進めていたため、海外出張をしなかった。 2024年度は、ルイ・マクニースのAutumn Sequelの作品研究を進め、学術論文にまとめるためにイギリスのBBCアーカイブに赴き、ラジオ放送のスクリプトや放送までのBBC内でのマクニースと関係者の間の社内便のやり取りといった関連資料を調査する計画を立てている。 また、所属する「英詩研究会」と共催するオムニバス形式の発表のため、国内の英詩研究者を招聘するために助成金を使用する予定である。
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