研究課題/領域番号 |
20K12953
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
高畑 悠介 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 准教授 (20806525)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | D.H.ロレンス / 視点 / 他者性 / 『息子と恋人』 |
研究実績の概要 |
初年度に当たる2020年度は、まずD.H.ロレンスの『息子と恋人』についての作品論を執筆し、査読つきの学術誌に投稿し、掲載に至った(「D.H.ロレンス『息子と恋人』における他者性と視点の問題」『テクスト研究』17(2021): 3-22)。一般に小説において、主人公兼視点人物となるキャラクターから見て、謎や不可知性というニュアンスでの他者性が際立つキャラクターをここでは便宜的に「他者」キャラクターと呼ぶが、そのような「他者」キャラクターの内面描写をどのように行うか、どのような視点操作を行うかという点にロレンスの小説家としての特異性の一端を見るというのが本研究の眼目である。当該論文では、『息子と恋人』におけるそのような「他者」キャラクターであるミリアムとクレアラについての視点の扱いに着目し、彼女たちの他者性がどのような扱いを受けているかを検討した。ミリアムについては、彼女の物語上の扱われ方がアンフェアである、主人公ポールの抱える欠陥の投影対象とされているという議論が既になされてきたが、本論文ではその現象を、ミリアムの他者性を否定し、彼女をポールの物語の従属物として扱う本作の抑圧的な姿勢から読み解き、それを視点操作や描写の段取りにおけるある種の奇異さと関連づけて論じた。また、物語による他者性の尊重され方の点で一見ミリアムと対照的な立場にあるかに見えるクレアラに関しても、本質的には同様の現象が観察でき、結局は他者性を否定されポールの物語の従属物として扱われていることを、やはり視点操作や描写の段取りの精査を通じて論じた。以上の議論から、「他者」キャラクターの他者性を否定し、物語全体をポールのワンマン劇に転じる身振りを見せる『息子と恋人』は、ロレンス文学の中核に潜むある種のナルシシズムを示していると結論づけた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、初年度に『息子と恋人』の作品論を形にしたうえで、査読つきの学術誌に掲載することができた。
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今後の研究の推進方策 |
2年目は、D.H.ロレンスの『虹』について、同様の観点(他者性と視点操作の問題)から作品論を形にし、やはり査読つきの学術誌に掲載することを目標とする。また、ロレンスの他作品については、必ずしも上述の観点が最適とは限らないため、若干異なる観点からの作品論を加え、ロレンス論としての全体の方向性を微修正・再構成することも視野に入れている。
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次年度使用額が生じた理由 |
おおよそ予定通りの予算消費だったが、若干使用せずに余った。次年度以降、備品や書籍購入に充てたい。
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