中世ヨーロッパにおいて描かれたイスラムの表象を対象とする研究は宗教と人種の問題に対する関心の高まりとともに、新たに注目されるようになっている。本研究は、近代以前には存在しなかったと考えられている「人種」という概念が「宗教」と密接に結びついたものとして存在しており、現代において他者を区別し排除する心的態度はすでに中世ヨーロッパにおいて観察できることを文学作品に対する分析を通して示している。ここで提示された問題意識は、中世イングランドにおける人々の想像力を理解する一助となるだけではなく、人種差別や他者の排除という概念がいかに恣意的に形作られたものであるかを示してくれる。
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