研究課題/領域番号 |
20K12961
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
田畠 健太郎 三重大学, 人文学部, 准教授 (10837305)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アフリカ系アメリカ文学 / エンパシー / 共感 / 感情移入 |
研究実績の概要 |
当該年度も渡米してアメリカの大学図書館や研究所において資料調査をしその成果に基づいて研究成果を出すことを中心的な研究活動として計画していた。しかしながら、前年から引きつづき新型コロナ感染症の影響で実施できなかったので、渡米調査は可能ならば次年度に繰り越すこととした。代替として、前年度から引きつづき、実地調査を必要としないエンパシー理論面での研究とテキスト分析の精緻化を深める方向へと計画を修正し研究を続けている。本年度の成果は、三重大学英語研究会発行のPhilologia53号(2022年3月発行)に「リチャード・ライト『アメリカの息子』再読(I)――『アメリカの息子』におけるエンパシーの検討」(pp.21-40)にまとめられた。本論考は、紙幅の都合により二つの論文に分かれるが、その前半部分にあたる本論文は、近代的アフリカ系アメリカ小説の嚆矢ともいえる本作品で展開されているエンパシーの力学を、人種主義的政治学を考慮に入れつつ分析するもので、本作品が「エンパシー」という感情的他者理解の可能性を批判的に吟味しているさまを、おもにナラトロジー的な観点から、つぶさに観察した。その過程で、他者理解としてのエンパシーの、いわゆる「抗議小説」における検討が、モダニズム文学の問題圏とも重なり合うさまにも検討を加えた。本論考の後半部は次年度に同紀要に発表予定であり、そこでは、より人種主義的な政治力学との相克において小説のエンパシーが本格的に議論されることになっている。ただし、次年度に実地調査ができるような状況になれば、自伝的要素や同時代の社会的言説を関わらせ、より歴史社会的な文脈から文学のエンパシーの機能を検討する作業に切り替えることも視野に入れている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度も新型コロナ感染症への対応としてのオンライン授業の準備や子供の養育(濃厚接触者としての自宅待機期間を含む)などで落ち着いて研究できる時間を確保するのが困難だった。また、本研究は、計画では、アメリカの図書館や研究所での資料調査を行う予定が組み込まれていたのだが、同感染症の影響で渡米することができなかったため実施できず、研究の方向性を修正することになった。
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今後の研究の推進方策 |
次年度も、引き続き渡米不可能な状況が続くことも考慮に入れて、まずは実地調査にあまり依存しないで済む理論的作品解釈の方向で先に成果をあげつつ、実地調査が計画最終段階までずれこむ可能性も視野に入れて研究を進める。具体的には、リチャード・ライト論文の後半部を発表するのと同時に、ゾラ・ニール・ハーストン、アリス・ウォーカー、トニ・モリスンらアフリカ系アメリカ女性作家による作品読解を行い、ライト論文ではうまく扱いきれない人種主義の問題とジェンダーの問題とエンパシーの問題の重なる問題圏を検討する作業を進める。また、感染状況が好転し実地調査ができるようになった時点で、渡米調査を実施し、自伝的要素や同時代の社会的言説を関わらせ、より歴史社会的な文脈から文学のエンパシーの機能を検討する作業に切り替える。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が出た最大の理由は、計画では、渡米してアメリカの大学図書館や研究所での実地資料調査をする予定であったのが、新型コロナウイルス感染症の影響で実施できなくなり、旅費が発生しなかったため。次年度に同感染症の影響がなくなり次第、実地調査を実行に移すことにする。次年度も渡米が難しい場合は、追加の資料購入費などに充てる予定である。
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