研究課題/領域番号 |
20K12962
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
宮澤 文雄 島根大学, 学術研究院人文社会科学系, 講師 (00749830)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アメリカ文学 / シカゴ万国博覧会 / 世紀転換期 / 万博体験 / 文学的受容 / セオドア・ドライサー / ライマン・フランク・ボーム / ラフカディオ・ハーン |
研究実績の概要 |
本年度は、前年度に取り組んだライマン・フランク・ボームとセオドア・ドライサーの作品、新聞記事、自伝等の一次資料の調査成果の一部を、日本英文学会東北支部で開催されたシンポジウムで発表し、続いて同学会のプロシーディングスでその報告を行った。その後、この発表成果の一部をもとに、シカゴ万国博覧会と20世紀アメリカ小説との関わりを探った論文を発表した。とくに「英米文学における記憶と想像力」と題したシンポジウムでの発表を通じ、多くの発見があった。なかでもドライサーについては大きな収穫があった。博覧会訪問時に新聞記者ドライサーが書いた記事と、その後の自伝での回想を比較すると、明らかに万博体験およびその印象についての認識が大きくズレていることがわかった。その点に注意してゆくと、ドライサーのシカゴ万博ないしシカゴという都市に対する認識の変容は、新聞記事と自伝のあいだに発表された小説『シスター・キャリー』(1900)の世界像に投影され(より具体的にはキャリーとハーストウッドの二人の人物の運命に仮託され)、検討されている、と読むことができる。さらに、この自伝と小説の連続性は、「小説を書くように自伝を書き、自伝を書くように小説を書く」というドライサーの創作作法の特徴の指摘にもつながった。作家の記憶や自伝に関する考察は、作家の万博体験とその後の創作を検討する本研究課題を進展させた。そのほか、前年度に思いがけず発見したラフカディオ・ハーンとシカゴ万博の関係については、幸いにも地の利を生かした調査ができたこともあり、その過程で関心を得たことを論文、エッセイ、書評と様々な媒体で発表することができた。ハーンについては創作こそないものの、万博と文学者の関係の多様さ・広範さを示すものとして重要であり、今後も引き続き調査を続けてゆく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度と同様に、新型コロナウイルスの感染拡大の影響によって、当初から予定していた米国図書館での現地調査を実施できなかったことに加え、国内調査についても移動が制限されたことによる。国外調査に関しては次年度も状況を見ながらの判断となるが、可能な限り文献資料を取り寄せて不足を補い、国内での調査・研究・執筆を充実させることによって遅れを回復させてゆく。
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今後の研究の推進方策 |
本年度では、本研究課題の軸となるボームとドライサーをまとめた視座から検討し、発表につなげることができた。また、論文では20世紀小説とシカゴ万博の関連性も指摘できた。つぎは最終年度に入るため、厳選した作家・作品を個別に検討し、創作におけるシカゴ万博の影響を丁寧に考察したうえで、これまでの議論をまとめてゆく段階に入りたい。本年度は新型コロナの影響で、国外調査の目途がつかなかったこと、国内調査の主がラフカディオ・ハーン関連だったため市内を中心に行われたこと、学会がすべてオンライン参加になったことで、計画通りに旅費を使用することができなかったが、今後、国外調査が実施できた際は、シカゴ万博に関する様々な記録および報告の調査を通じて、主催者側の意図を把握し、万博体験を経た作家の創作活動はその点にどう関わるものであったかなどの検討によって、世紀転換期における万博小説の位置づけを考察したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度中に実現できなかった国内外の図書館での調査を実施していくため。またいっぽうで、当面はこのような事態が続くことも予想されるため、海外調査の不足をできるだけ補うために、文献資料の取り寄せおよび購入を積極的かつ柔軟に行い、より良い研究成果に結びつけたい。
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