本年度はラフカディオ・ハーンと博覧会のかかわりを通じて、文学者と博覧会の関係性を多様な視点から捉えることができ、研究範囲の拡大と進展がみられた。まず前年度から準備を進めていた論文を完成させ、「ラフカディオ・ハーンとニューオーリンズ万博」として学術誌に公表することができた。その後も調査を継続し、以下の成果を得ることができた。ひとつめに、松江の彫刻家・荒川亀斎がシカゴ万博に出品する際ハーンが助力したことが知られているが、両者の関係性を示す書簡、新聞記事、日記などの資料を収集し考察を進めることができた。ふたつめに、ハーンの蔵書を所蔵する富山大学附属図書館のヘルン文庫での調査において、ハーンがニューオーリンズ万博訪問時に会場で手に入れたと思われる伊沢修二の『音楽取調成績申報書』(一八八四年)の英訳抄録が蔵書中の雑集のなかにあることを確認し、さらに伊沢に関する資料調査を通じていくつかの新情報を得ることができた。みっつめに、万博会場でハーンが知遇を得た服部一三について、兵庫県公館県政資料館を訪問し、同館が所蔵する服部一三関係資料の調査を行い、当時の書簡などの新資料を確認することができた。新資料をはじめとする服部に関する調査成果の一部は、2024年度に新たに採択された科研費の研究課題で引き継いでいく予定である。シカゴ万博を直接訪問した作家についての調査研究では、新型コロナウイルスの蔓延により米国での現地調査が困難であったものの、その間に資料収集と作品読解を進めることができた。資料収集の面では、この期間中にウィリアム・ディーン・ハウエルズやヘンリー・アダムズに関する文献を集めることができた。それらを本研究課題に関連づけていくとともに、今後は本研究の中核をなすセオドア・ドライサーの万博体験とその文学的受容について、2021年度のシンポジウムでの発表をさらに発展させ論文として公表していく。
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