研究課題/領域番号 |
20K12965
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
南谷 奉良 京都大学, 文学研究科, 准教授 (80826727)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ジェイムズ・ジョイス / アイルランド / 鞭打ち / 動物の痛み / 痛みの文化史 |
研究実績の概要 |
本年度は代表作『ユリシーズ』刊行100周年を迎える年にあって各地でジョイス研究が活性化する中、専門知をアカデミアの外に広げる活動に主体的に携わった点で、特筆すべき成果を収めたと言える。 ①2022年2月から開始した若手・中堅研究者13人が立ち上げた連続オンラインイベント「22 Ulysses―ジェイムズ・ジョイス『ユリシーズ』への招待」(日本ジェイムズ・ジョイス協会・アイルランド大使館後援)の発起人の一人として企画・運営・広報を行い、合計22人の研究者に登壇を依頼し、2月から12月までの間に22回のイベントを実施し、平均して毎回約180名の一般参加者を迎えた。南谷は同イベント内では合計3回の口頭発表を行い、うち一つでは20世紀初頭における動物の痛みや苦しみを描いた『ユリシーズ』の側面を論じることができた。 5月には③日本英文学会のシンポジウム内で小説空間で描かれる荷役動物について扱い、存在を不可視化される動物とその痛みの問題系を指摘した。6月には④日本ジェイムズ・ジョイス協会第 34 回研究大会で発表を行った。家庭や教育現場、刑務所や軍隊内部の罰則として根付き、また荷役動物や演芸動物にも振るわれるものとして長い伝統的慣習となっていた鞭打ちの実践を歴史的な文脈と関連させると同時に、鞭打ちの痛みの要素を希薄化し、快楽として描くようになった『ユリシーズ』の特異性と問題点を指摘した。また同月にはダブリンで開催されたInternational James Joyce Symposiumに参加し、最前線の研究に触れると同時に、世界各地から集まってきた研究者と懇談する機会を得た。滞在中には、①で実施したイベント中にダブリンの街中からオンラインで実況中継を行い、『ユリシーズ』の作品世界をリアルタイムで紹介できた点も有意義な試みであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3カ年連続で日本ジェイムズ・ジョイス協会で口頭発表を行い、主要作品Dubliners (1914), A Portrait of the Artist as a Young Man (1916), Ulysses (1922)における鞭打ちとその痛みの表象のフェーズ展開を考察した点では、当初の研究計画を予定通り遂行することができた。またジョイス研究の裾野を広げる点では、①のイベントが、他の研究者の協力もあり、予想以上の成功を収めたと言える。ただし研究計画にはなかった同イベントの全22回にわたる大規模な実施の運営業務に加えて、コロナ禍による影響による海外出張時の滞在日数が限られていた。鞭打ちに関するアイルランドでの資料収集とその成果を活用した論文の執筆が滞っているために、「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
3カ年で行った学会発表4つの成果のうち3つが学会誌に未投稿であるために、それぞれの発表を論文化するために必要であった海外現地調査の結果を踏まえて、論文執筆・投稿を行う予定である。海外調査は、夏季にダブリン市内の大学、J・ジョイスミュージアム等の施設、及びジョイスの幼少期の母校クロンゴウズ・ウッド・カレッジにて行うことを検討している。また、
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画になかった複数回にわたる大規模イベントの実施による業務の多忙化とコロナ禍による感染への懸念により、海外渡航と現地調査が十分な期間で実施できなかったことによる。夏季休暇にはダブリンに渡航し、現地調査を行う予定であり、これらの海外渡航に際して必要になる旅費、消耗品費、物品費、書籍費、調査費、海外研究者との交流に必要な費用を使用する予定である。
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