研究課題/領域番号 |
20K12966
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
生駒 久美 東京都立大学, 人文科学研究科, 准教授 (00715063)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 貧乏白人 / 黒人逃亡奴隷 / 南部貴族 / 言語 / 抵抗 / トランスベラム |
研究実績の概要 |
2022年度は、「チャールズ・チェスナット『伝統の髄』における『犬』の喩と人種・階級」を『人文学報』に執筆した。この論文では、『伝統の髄』における「犬」の比喩表現を中心に、白人と黒人の関係を考察した。最初に、白人至上主義者内部で、南部貴族と貧乏白人出身者間の階級的な緊張関係がありながら、それにも関わらず、なぜ黒人の弾圧において協力関係になるのかを論じた。次に、「犬」の比喩に焦点をあて、白人 至上主義者たちが、どのように黒人を「犬」と結びつけているのかを考え、その後、犬の比喩を補助線にしながら、既存の人種観に対する言語的抵抗が表現されていることを考察した。最後に、 南部貴族の登場人物の叫びに焦点を当て、白人を加害者、黒人を被害者という二項対立のナラティヴに収めず、 実在の人種虐殺という悲惨な事件の中に、白人と黒人の和解、融和のわずかな可能性をチェスナットが残 したと論じた。 また、Elmira 2022: The Ninth International Conference on The State of Mark Twain Studies で、"Transbellum Perspective in Adventures of Huckleberry Finn"というタイトルで学会発表を行い、貧乏白人と黒人逃亡奴隷の階級観をそれぞれ検討した。 そのほかには、第61回日本アメリカ文学会全国大会シンポジアム「トランスベラム文学の可能性:19世紀アメリカ文学史を再考する」では「"boys"の南北戦争--Mark Twainの従軍体験と感傷性」を、東京都立英文学会では「“as if he had been their brother”--Mark Twainの南北戦争表象と感傷性」を口頭発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は、黒人と貧乏白人の関係性に関する研究の成果として、「チャールズ・チェスナット『伝統の髄』における『犬』の喩と人種・階級」を『人文学報』に発表した。黒人と貧乏白人の関係性については、歴史学や社会学、経済学では盛んに研究されているが、文学研究ではまだ研究が十分になされているとは言い難い。そうした中、犬の比喩に着眼しながら、南北戦争以降の黒人と貧乏白人の関係性を探る論文を執筆した。その結果、貧乏白人が南部貴族と連携して黒人を虐げるだけでなく、白人が黒人に対して用いる犬という比喩に着眼しながら、チェスナットが文学者としていかに白人の暴力に抵抗しながら、融和の道を模索していたかを炙り出した。
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今後の研究の推進方策 |
チャールズ・チェスナット作品における貧乏白人と黒人の関係性を引き続き探る予定である。チェスナットは、『伝統の髄』(1901)だけでなく『大佐の夢』(1905)においても、南北戦争後の白人労働者と黒人の関係性を描いている。フレデリック・ダグラスは、自伝の中で、南北戦争以前の北部において黒人労働者ダグラスに対する白人労働者の暴力を描いている。ダグラスの自伝を意識しながら、チェスナットが南北戦争後の白人労働者と黒人の軋轢をどのように描いているのかを考察したい。また、小説の舞台となる南部を改革しようとする南部貴族である主人公が、白人労働者と黒人の対立の取り組みになぜ挫折したのか、その理由を探ると同時に、挫折の様がどのように表象されているかについても分析する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ・ウィルスの猛威により、当初予定していた国会図書館での調査が見送られた。本年は、米国のマーク・トウェイン協会が開催している2023年度Quarry Farm Fellowに選出されたので、本年マーク・トウェインの生家やエルマイラ・カレッジに出張し、論文執筆のための資料収集する予定である。
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