研究課題/領域番号 |
20K12970
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研究機関 | 大阪工業大学 |
研究代表者 |
瀧川 宏樹 大阪工業大学, 工学部, 講師 (70823665)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ブランウェル・ブロンテ / 男性像 / 男性性 / エリザベス・ギャスケル |
研究実績の概要 |
令和3年(2021年)度はブランウェル・ブロンテ自身が置かれていた状況をより把握するために、エリザベス・ギャスケルの『シャーロット・ブロンテの生涯』におけるブランウェル像の詳細な分析に重点を置いた。以下の3点が、主な論点である。 1.従来、ギャスケルが描く、家庭内の荷物や社会において成功できなかった男、酒やアヘンに溺れ堕落して人生を棒に振った男としてのブランウェル像が定着していたが、実はギャスケルにはブランウェルを弁護する姿勢も見られる。特に道徳的堕落に関しては、ブランウェル個人に対する批判以上に、男性は道を誤らないという男性観ゆえに、周囲の盲目や男性への甘やかしなどの社会的風潮にギャスケルの批判は向けられている。男性の堕落の背景に、誤った男性観の存在を見ようとするギャスケルの姿勢からは、ブランウェルのような意志が弱く最終的に堕落してしまった男性を犠牲者としてみる視点も見いだせる。 2.一方で、ギャスケルは経済的自立をせず一家の大黒柱としての役割を果たさないブランウェルに対しては批判の目を向けている。またそのように男性に社会的成功を求める様子は、サミュエル・スマイルズの『セルフ・ヘルプ』でも描かれており、成功できなかった男性に対する批判のまなざしは確かに存在していた。 3.男性たるもの成功をおさめ力を持つべしという男性観に苦しむ男性の姿はギャスケルの小説作品でも描かれている。 男性優位社会であるからといって、男性が必ずしも生きやすかったわけではなく、男尊女卑の価値観は、女性にとってのみではなく、男性にとっても負担となることが多々あったということを、ギャスケルの作品を通して浮き彫りにできた。その中でブランウェル・ブロンテがどのような男性を作品内で描いていくのかという議論につながる重要な背景を明確にできた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和2年(2020年)度から引き続き、新型コロナウイルス感染拡大による影響により、海外渡航等に制限がかかる等、思うように研究成果の発表を進めることが困難であった。 また、令和3年(2021年)度は、ブランウェル・ブロンテ自身が置かれていた状況をより把握するために、エリザベス・ギャスケルの『シャーロット・ブロンテの生涯』におけるブランウェル像の再考に重点を置いた。そのためブランウェル・ブロンテの作品研究がやや遅れることになってしまった。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年(2022年)度は、1833年以降の作品分析を引き続き進め、研究発表を行う予定である。特に主人公アレグザンダー・パーシー像が中心となると予想される。 また、令和2~3年度に口頭発表を行った成果を論文として発表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大状況により、国内学会および国際学会がすべてオンラインでの開催になったため、旅費が一切生じなかった。次年度以降、対面での学会開催が再開された場合に使用予定である。
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