研究実績の概要 |
最終年度(令和4年度)は、初年度(令和2年度)と次年度(令和3年度)の成果で得たグレヴィルの作品における政治批判を基に、新たにグレヴィルの戯曲『ムスタファ』(Mustapha, 1633)の分析を行った。この作品は複数のテクストが存在しており、今回はエリザベス1世の時代に書かれたテクストと国王ジェイムズの時代に修正されたテクストを比較しながら分析した。その結果、修正後のテクストには腸チフスによって夭折したヘンリー・フレデリック・ステュアート(Henry Frederick Stuart, 1594-1612)が、父親である国王ジェイムズによって暗殺されたという噂が反映されている可能性を見出した。その噂の背景には、ジェイムズの議会における求心力の低下とスペインとの平和主義的外交政策に対する国内の反発だけではなく、次期国王として国民から圧倒的な支持を得ていたヘンリー皇太子に嫉妬するジェイムズの姿があった。この分析結果をまとめ、英国の学術誌Modern Language Reviewに論文を投稿し、2023年7月に掲載されることが決定した。 なお、最終年度では新型コロナウィルス感染拡大の影響に鑑みて、国外の学会への参加は自粛した。しかしながら、上記の学術誌に論文を投稿したことにより専門家から多くの助言をもらうことができたため、研究を深化することができた。最終年度で得た成果を基に、今後はグレヴィルの詩作品だけではなく、戯曲も取り上げ、どのようにグレヴィルが作中でジェイムズの政治を批判しているのかを追求していく。
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