研究課題/領域番号 |
20K12975
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
岩崎 雅之 福岡大学, 人文学部, 講師 (00706640)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | E. M. Forster / Virginia Woolf / Bloomsbury Group / Empahty / Modernism / Metamodernism / The Hours / Howards End |
研究実績の概要 |
本研究の二年目は、まずVirginia Woolfを登場人物のひとりとして登場させているMichael CunninghamのThe Hours (1998)をモダニズムの継承、あるいはメタモダニズム(metamodernism)と呼ばれる観点から精査した。実在した作家を登場させるジャンルの作品は昨今biofictioとも呼ばれており、その主題は現代におけるセクシュアリティの批判的再構築であると考えられている。Cunninghamの創作行為は、ひろく21世紀に端を発するモダニズム文学への回帰という現代の英米小説の趨勢を反映するものであり、それは先行するポストモダニズム作品に対する抵抗、あるいは対立命題の提出としても理解できる。ただしその翻案において、対象となる作家の人生の出来事や作品世界の構造は、グローバル化より正確に言うならば「アメリカ化」されている。実際Woolfの執筆したMrs Dalloway(1925)の世界は、20世紀末のニューヨークに生きるひとびとのセクシュアリティを描くものとして用いられている。同様の現象はE. M. Forsterの作品の翻案にも見られる。Matthew LopezによるHoawrds Endの翻案、The Inheritance (2018)には、ForsterがMorganという人物として登場し、ニューヨークに生きる同性愛者たちに助言を授ける。William di CanzioのMauriceの書き直しであるAlec(2021)においても、ForsterはMorganとして登場し、主人公Alecを導く人生の指南者としての役割を果たす。また、最終的にAlecの目指す地はニューヨークに設定されている。以上の点は、単にメタモダニズムという概念のみでは理解の難しい部分である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までのところ、おおむね順調に研究を進めることができている。本研究の目的であるモダニズムと現代小説の(非)連続性の解明は、CunninghamのThe HoursやForsterの作品の翻案であるThe Inheritance、またAlecなどの分析を通じて明らかになってきている。調査の過程において、biofictionの創作や、時代を超えた作家間のオマージュが、このような文学史的問題を検討するうえで非常に重要な意味を持ちうるものであることもわかってきた。その意味では、当初想定していた個々の作品における登場人物間の共感のあり様などよりも、現代作家によるモダニストのセクシュアリティの再検討、あるいはそれに対する共感のあり様の方がより重要なようである。この点はメタモダニズムという概念だけでは説明がしにくいものであり、今後はこの概念自体の批判的検討も行う必要があるだろう。Biofictionとモダニズム作品のグローバル化/アメリカ化には、WoolfとForsterの人生と作品がかかわっており、同様の現象はBloomsbury Groupという団体の構成員においても見られるものであるため、今後はより巨視的な視点に立った調査研究が必要であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
研究の最終年度では、Bloomsbury Groupの美学と、彼/彼女らの人生における出来事がどのように現代の作品に反映されているかを検証するため、2年目までに明らかにしたモダニズム作品のグローバル化、あるいはアメリカ化という観点から研究を進めることとする。具体的にはLytton StracheyとDora de Houghton Carrington の交流を描いた伝記的映画Carrington (1995)や、Bloomsbury Groupのメンバーの半生を描いたGillian FreemanのBut Nobody Lives in Bloomsbury (2006)、およびVanessa Bellの生涯を中心に、妹Virginia Woolfとの関係を描いたVanessa and Her Sister (2014)を研究の対象とする予定である。はたしてLytton StracheyやVanessa Bell、また他のBloomsbury Groupの構成員の人生は、ForsterやWoolfのそれと同じように、グローバリズムの影響を受けた作品づくりに関与しているのだろうか。これらの作品の研究を通じ、現代におけるBloomsbury Groupのリヴァイバルがどのような文学的意義を持ちうるものなのかを明らかにし、またモダニズムに対する再注目の真意も解明することとしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2年目に必要となる書籍が予定よりも多くなり、そのために前倒し支払請求を行った。次年度使用額はおおよそ予定通りのものであるため、研究を遂行するうえでは特に大きな問題とはならない。
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