今年度は、バイオフィクションと呼ばれる作品群に注目し、ブルームズベリー・グループの遺産の継承がどのように行われているのかを明らかにした。バイオフィクションとは、拡大解釈をしてみると、実在した作家などの人生を小説や劇、あるいは映画の語り口などで綴る作品のことである。この分野の特徴として、まず一点目に、作者本人とその作品が、同性愛者である主人公の自己形成を促すという点が挙げられる。Mrs Dallowayを下敷きとしたThe Hoursなどが、その好例である。本作においては、作者ヴァージニア・ウルフ自身の人生も重要な要素として機能している。二点目として、社会規範を問い直すような夫婦愛、家族愛が主題として描かれる傾向がある点を指摘できる。例えば、ブルームズベリー・グループにおいて主要な役割を果たしたウルフの姉、ヴァネッサ・ベルの半生を綴ったVanessa and Her Sister (2014)などでは、夫クライヴ・ベルと、妹ヴァージニア・ウルフの三角関係を中心として展開している。また、三点目として、リットン・ストレイチーとドーラ・キャリントンの交流を描いたCarrington (1995)には、ノスタルジックにかつての英国の姿を描く、ヘリテージ映画のような特徴と、20世紀末からアメリカ合衆国において求められた、性的マイノリティの権利や生を称揚する多文化主義の影響を読み取ることができた。
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