研究課題/領域番号 |
20K12979
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
古宮 路子 埼玉大学, 人文社会科学研究科, その他 (00733023)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ロシア・アヴァンギャルド / レフ / 未来派 / ヴォロンスキー / ラップ / ファクトの文学 / 文学史 / 生成論 |
研究実績の概要 |
本研究は、1920年代のアヴァンギャルドの文学を、①詩的散文、②パロディー散文、③ファクトの文学、の3局面に即して検証する。その際には、特に、代表的3グループである、レフとヴォロンスキーの派閥およびプロレタリア作家組織の関わりに注目する。プロジェクト初年である2020年度は上記③の研究に取り組み、レフの提唱したファクトの文学とヴォロンスキーの関係性について検証した。その成果は、2020年10月31日に大阪大学(オンライン)で開催された日本ロシア文学会第70回大会において、口頭報告「生活と芸術――レフとA.ヴォロンスキーの文学論争」として公開した。また、この報告をもとに改稿した論文の今後の刊行を目指している。この報告は、アヴァンギャルドのレフが提唱しのちのファクトの文学に繋がった「生活建設の芸術」と、それに異を唱えることから出発し認識論的文学論へと展開していったヴォロンスキーによる「生活認識の芸術」という、1920年代ソ連で大きな影響力を持った2つの文学・芸術論の対立を論じたものである。報告は特に、両者の対照的な表象システムに着目した。ヴォロンスキーの文学論において、作品とはイメージを纏わせたイデーによって受容者の世界認識を新たにするものである。ここでのイメージを、この理論家は現実から複数の要素を抽出して結んだ総合的なものであるとしていた。こうした表象方法は、19世紀の批評家ベリンスキーの芸術論における絵画をモデルとした「典型化」という考え方と重ね合わせることができる。それに対し、リアリズム文学の「総合化」「典型化」に異を唱えることから新たな芸術を切り拓いていったのが、レフの前身である詩における未来派であった。この傾向を引き継ぐファクトの文学では、イメージのあり方は写真をモデルとする個別的なものとなったことを、報告は指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の進捗状況は、世界規模で起こっているコロナウイルス感染拡大の影響により、当初の想定よりもやや遅れている。 本研究は、ロシアの様々な図書館・アーカイヴでの資料調査や海外で開催される学会への参加といった国外出張を前提とする計画に基づくものであった。しかし感染拡大を受け、申請者の勤務する大学では海外渡航を原則禁止する措置が継続的にとられており、2020年度を通じて出張は不可能であった。さらに、研究に必要な書籍等の大半は海外から購入するものであるが、郵便事情の悪化により配達が遅れ、手元に届くまでに通常よりも長い時間を要することとなった。このような状況を受けて資料が手に入りづらくなり、研究に支障が出ている。 また、人的交流にも影響が生じている。本研究の枠内で、当初は2020年度内にロシアからアヴァンギャルド美術の専門家を招聘し北海道大学と東京大学で講演を行っていただく予定であったが、その計画も日露両国でのコロナ感染拡大のため未だ実現に至っていない。 その一方、国内・海外を問わず、オンラインでの学会や研究会が盛んに催されるようになり、2020年度はそれらに積極的に参加した。日本ロシア文学会第70回大会(大阪大学)では口頭報告「生活と芸術――レフとA.ヴォロンスキーの文学論争」を行った。また、2021年2月19日には、北海道大学スラブ・ユーラシア研究センターが主催するロシア語の講演会「草稿から本へ――テクストロギアの課題、シリーズ「文学の記念碑」のためのЮ. オレーシャ『羨望』校訂を一例に」においてオーガナイザーと司会を務め、A. イグナートワ氏と沼野充義氏に登壇していただいた。さらに、海外での学会にも聴衆として参加し、たとえば2020年12月15-16日にモスクワの世界文学研究所で開催された学会「20世紀ロシアの文学プロセスにおける読者」では闊達な議論に大変刺激を受けた。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は引き続き海外渡航が困難な状況が続くことが見込まれる。したがって、資料収集は日本国内の図書館を活用する予定である。また、最新の文献については海外の書店や出版社に直接連絡を取り個人輸入する。学会や研究会については、オンラインで開催される企画を中心に参加し、聴衆として関連研究等の動向に触れるとともに、自らも口頭報告の機会を得る。また、海外からのゲストスピーカーの招聘もオンライン企画で行うことを検討している。 2021年度の具体的な研究内容としては、上記①詩的散文の研究に取り組む予定である。アヴァンギャルド運動初期から主導的な役割を担い、ザーウミ(超意味言語)の旗手であったA. クルチョーヌィフと、やや遅れて1920年代末に文学界に登場した同伴者作家Yu. オレーシャの交流を研究することで、ザーウミと装飾的散文の関係を探りたい。この研究に必要な資料は、若手研究の本プロジェクトが開始する以前からロシアで収集をしていたため、ロシア語文献やアーカイヴ資料の蓄積がある。英語文献はまだ十分に手元にないため、入手に努めたい。 2022、2023年度については、海外出張や国外ゲスト招聘が再び可能になることを見込んで計画を立てている。国際学会に参加し、報告の成果をまとめた論文がロシア国内で刊行されることを目標にしている。また、毎年2週間程度ロシアに渡航し、資料調査を行うとともに現地研究者と対面での交流の機会を持ちたい。具体的な研究内容としては、上記①詩的散文、②パロディー散文の様々な作品を、アヴァンギャルド以外のグループをも包括する同時代のソ連文学界全体の文脈に置き、文学史的観点から検証を行う予定である。そのうえで、2023年度には、プロジェクトを総括し1920年代のアヴァンギャルド散文の全体像をまとめるような口頭報告または論文執筆を行いたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、新型コロナウイルス感染拡大により、予定していた出張(資料調査、学会参加)が全て取りやめになるとともに、海外から招聘する計画を立てていた専門家にも来日していただけなくなり、旅費が発生しなかったためである。 2021年度は感染状況が改善する見通しが不透明なため、予算の使用は引き続き物品費(書籍等)が中心となる見込みである。また、オンライン講演会を開催し国外の研究者に登壇していただくことも検討しており、謝金の支出も見込まれる。 2022、2023年度については、もっと自由な海外渡航が可能になるという見通しのもとに研究計画を立てている。ロシアでの学会参加や資料調査を当初の予定以上に精力的に行う予定である。若手研究の本プロジェクトを開始した段階では、予算の制約のため学会参加と資料調査はそれぞれ隔年で行う予定であったが、次年度使用額を利用してどちらも毎年行うように変更したい。また、海外から関連研究者をゲストとして日本に招聘し、国内の複数の大学で講演を行っていただくことも予定している。その際の謝金の一部は本研究の資金から支出する。したがって、若手研究の本プロジェクトが始まるにあたって見込んだ以上の旅費を要することが予想される。
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