研究課題/領域番号 |
20K12982
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
洲崎 圭子 お茶の水女子大学, グローバルリーダーシップ研究所, 特別研究員 (40869294)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ジェンダー / 女性作家 / 比較文学 / 移動 / 境界 / 自己翻訳 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、自らの意志で海外に渡り、複数の言語で執筆する女性作家の作品に表れた言語やジェンダー、人種、ナショナリティの境界に関する表象の特徴を明らかにすることである。本研究の初年度として令和2年度には、米国に居住し英語でも書くメキシコ人作家バレリア・ルイセリ(1983生)と、ドイツに移住しドイツ語と日本語で書く日本人作家多和田葉子(1960生)の小説から、自己翻訳した作品の内容の異同について分析することに主眼を置いた。 本年度の研究成果としては国内外における学会において発表された。コロナ禍の制限があるなか現地に出向くことなく、オンラインでの発表の機会が増えたため、予定していなかった海外の大学において、口頭発表することができた。多作な多和田の作品について分析する良い機会となったため、ドイツ語の自己翻訳版については、言葉遊びの傾向があることが明らかになった。また、所属先学会の年次大会においては、ルイセリの『俺の歯の話』のスペイン語版原著と英語版とを比較した結果、内容構成等についても多くの異同が確認された他、両版における主人公の造型が別々になされていることが明らかになった。別の所属先学会における口頭発表では、多和田の『旅をする裸の眼』の主人公が、東西の壁が崩壊した時代の社会の激動期に、異国の地で国家組織に捉われることなく新たな自己を立ち上げていった様子が描かれたことが明らかになった。 本研究は、次年度に論文として公表する予定である。本年度はまた、ジェンダーや文学理論書を読み込む準備に着手し、主要な関連書を収集することができた。それらを収集・調査するなかで、多和田やルイセリ以外の女性作家の他、海外滞在歴が長い男性作家の作品など新たな発見をみたことが有意義であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
まず、本研究に必要とされる関連文献の調査に関しては、コロナ禍のため、予定していた米国のテキサス大学ベンソン・コレクションを訪問することがかなわなかったことから、ルイセリ関連の基礎資料をはじめとした文献を入手することができなかった。日本の大学図書館が一部開館したのちであっても、レファレンスサービスは限定的であり、海外の大学にコピー依頼等を出したとしても、返事があるかないか不明であるため、依頼することが差し控えられたといった事情もあった。2020年春に米国で出版された多和田に関する英語文献は、作家自身のエッセイも含んでいたため、最新動向を知るためには欠かせないものであったが、実際に手元に届いたのは秋であった。当該文献を急いで読み込んだ上で新たな文献を注文したものの、年度末には未着であった。このように、本研究の初年度に予定していた資料が思うように収集できなかったが、次年度以降は、状況を見極めていきたい。 また、夏に予定されていたブラジルでの国際学会において、多和田についての口頭発表を予定していたが、学会開催は年度末に延期となり実施されたものの、予定が合わず発表がかなわなかった。他方で、オンラインでつながる機会が増え、複数の海外の大学から招待講演など口頭発表の機会をみたことは幸いであった。次年度以降は、事態が収まることを待ちつつ、オンライン参加可能な国際学会等を積極的に探すことを課題としたい。
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今後の研究の推進方策 |
1)資料収集:文学作品および表象を研究対象とする本研究においては、文献資料は必須である。引き続き、資料収集の機会を探る。2)作品分析:収集した資料をもとに、作品分析を行う。最新のものを除き、過去の小説作品自体はおおむね入手できているため、読み込みを行うこととする。3)先行研究の調査:寡少ながらも入手した資料以外に、今般の事態を受け、海外の大学図書館等のなかには一定額を支払ってダウンロードすることが可能な文献を増やそうとする傾向が多く見受けられる。海外調査が可能となるまでの間、そうした種類の文献も視野に入れて収集することとする。4)研究に必要な機器の充実:海外調査に出る予定がなかったため購入を差し控えていたパソコン類は、今年度末には海外渡航が可能になるといった状況も見受けられると同時に、同時代に活躍する作家らが、世界各地からネットをつうじて講演会や対談などを発信する機会が激増している。それらの動画を含む大量のデータを保存し活用するためにも周辺機器を含めて購入し、研究環境の整備を図る。5)研究成果の発表:初年度に実施した口頭発表をもとに、所属する学会誌等において論文発表する。それらのうちの何点かは、英語やスペイン語による論文として海外に向けて情報発信を行っていきたい。資料を収集し分析した成果をできる限り早期に発表するため、口頭発表の機会を持つことを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度に予定していた複数国での海外調査や、国内外における学会発表の機会が、コロナ禍によりなくなったため、旅費をまったく支出しなかった。同時に、調査や発表などで訪れる予定であった海外の国々においてはインターネット状況が良くない場所等に出向く必要もあることから、新たに購入を予定していたパソコン等機器の購入を差し控えたことから、支出額が予定を大幅に下回ることとなった。 しかしながら、最新の状況を鑑みると、学会によってはすべてオンラインで実施するものの増えてきているといった傾向が多く見られるため、自宅から配信する際の万全を期すために環境等を整えることを射程に、パソコン本体を含め周辺機器を購入することとしている。また、コロナ禍の見通しは予断を許さないものの、ワクチンが一定出回るようになってきているため、年度末には海外調査に出かけることが可能になると予想している。特に、調査予定先にしている米国やメキシコなどでは、すでに令和3年5月時点で海外からの渡航者の受入れの緩和措置も取られ始めており、大学等図書館も開館するところが増えてきているといった状況があるため、調査のための旅費を支出予定とした。
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