研究課題/領域番号 |
20K12984
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
上月 翔太 愛媛大学, 教育・学生支援機構, 助教 (90860867)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 聖書叙事詩 / ユウェンクス / セドゥリウス / ウェルギリウス / ダヴィデ |
研究実績の概要 |
古代末期の聖書叙事詩についてその最初期にあたるユウェンクス『福音書四巻』と到達点といえるセドゥリウス『復活祭の歌』の比較から聖書叙事詩成立の過程を描くことを行った。古典古代の叙事詩伝統を強く継承しているユウェンクスの作品と比較することで、セドゥリウスの作品が聖書叙事詩独自の進展をみせたことが示された。セドゥリウスにはユウェンクス以上に叙事詩伝統と聖書伝統に対して意識的なところがあり、その点が作品の構成に影響を及ぼしていることがわかる。すなわち、セドゥリウスは、それまでの叙事詩にみられた英雄的、教訓的、牧歌の伝統がうかがわれる表現や構成を自作に取り込んでいたり、旧約聖書の諸エピソードを第1巻にもってくることで、第2巻以降に語られる新約聖書(福音書)のイエスの物語との関係性を示そうとしたりしている。 ユウェンクスとセドゥリウスの比較から聖書叙事詩が単なる聖書の語り直しだけでなく、それまでの古典文学伝統の統合の場としても機能していることがうかがわれる。この統合の象徴もまたユウェンクスからセドゥリウスにかけて変化している。ユウェンクスにおいては聖書叙事詩の模範としてホメロスとウェルギリウスが位置していたのに対し、セドゥリウスについてはダヴィデが象徴的に扱われている。ユウェンクスにおけるホメロス、ウェルギリウスも、セドゥリウスにおけるダヴィデも、作品の冒頭部分で比較的明確に名指しされている。この違いは異教からキリスト教へという変化を示すものともいえるが、また、叙事詩の詩人と旧約聖書における詩編の詩人というように見るならば、試論上の差異も示していると考えられる。この聖書叙事詩におけるダヴィデの位置づけにはどのような意味があるのかという問題を見出すこととなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
予定していた原稿の刊行が遅延したため、「やや遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
先の項目で挙げたダヴィデの聖書叙事詩における位置づけの問題に取り組むと同時に、これまでの個別作家研究を整理し、文学史として記述する段階に入る。具体的には古代末期とルネサンス期の聖書叙事詩の構成と特徴をまとめ、また、複数の作品に共通してみられる特徴的な場面の比較を行ってそれぞれの詩人の個性と、聖書叙事詩というジャンルの一般的特徴や傾向を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度内に刊行遅延で納品されなかった書籍があったため。残金は次年度の資料購入等に当てる。
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