研究課題/領域番号 |
20K12985
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
北岡 志織 大阪大学, 大学院人文学研究科(外国学専攻、日本学専攻), 講師 (60867894)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 現代ドイツ文学 / 現代ドイツ演劇 / 難民 / 公共劇場 / カタストロフの表象 / ドキュメンタリー演劇 / 他者表象 / 移民 |
研究実績の概要 |
2023年度の主な実績は論文「Echte Fluechtlinge?:Exoten auf der deutschen Buehne」である。これはドイツで出版された論集『Exotismen in der Kritik』(Series:Szenen/Schnittstellen,Volume11, Hg.v. Mechthild Duppel, Rolf Parr und Thomas Schwarz, Brill Verlag)に収録されている。この論文は2022年度に行ったドイツ語での口頭発表「Echte Fluechtlinge?:Katastrophen und die diskursive Konstruktion einer exotischen Authentizitaet der Anderen」に大幅な加筆修正を加えたものである。 この論文は2020年度-2021年度に取り組んだ「現代ドイツ演劇界において難民当事者が舞台で経験を物語る演劇の研究」と「難民が現代ドイツ演劇界の舞台に立つ要因(カタストロフと「表象不可能性」)の研究」、そして2022年度に取り組んだ「挑発的な難民像を示す演劇の研究」の成果をもとに、さらに難民演劇とエキゾチシズムという問題に着目して公共劇場における難民演劇の動向と難民の表象の変化を考察した研究成果である。 難民流入当初は難民の「語り」が証言と同一視され、それが演劇的なものと対比されることにより、「真正性」が強調されてきた。しかし何度も繰り返し類似の演劇が上演され表現形式が固定化すると、「真正性」は語りよりも寧ろ難民の外見や言語の「他者性」に求められるようになったと言える。そしてそのようなドイツ演劇界の動向に対する批判として『夢の船』における挑発的な難民像があらわれたと考えられる。 この論文に加え、これまでの研究成果をまとめて博士論文を執筆した。審査は2024年度に実施予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2023年には渡航の制限は大幅に緩和されたが、報告者は健康上、2020年、2021年、2022年と同様に新型コロナウイルスの関係で当初予定していた現地調査を断念せざるを得なかった。そのため、引き続き日本で取り寄せることが可能な映像資料とテクスト資料の分析を行った。その結果、難民流入後に公共劇場内外に生じた変化の研究として、難民を主題とした戯曲『Willkommen』の喜劇性と芸術アクション『Fluechtlinge Fressen』(2016年)における難民表象と政治性についての考察を行うことができた。これらの研究は博士論文の第六章第一節および第三節にあたる。 他方、現地調査を断念したため、難民当事者による公共劇場外での演劇実践についての研究を中断している状況である。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度はこれまでの研究成果を踏まえた上で、①難民演劇と植民地主義の想起の問題の研究および②公共劇場外での難民演劇実践についての研究を行う。 ①『夢の船』の考察からも明らかにしたが、近年の難民演劇に過去の植民地主義を批判するような台詞や演出が多く見られる。もともとは現代の難民の権利向上や受け入れの促進という意味合いが強かった難民演劇がいかに過去の植民地主義を想起する場となったのかを上演分析及び劇評から考察する。 ②これまでは主に公共劇場における難民演劇とその変化について考察してきたが、ドイツ演劇界のメインストリームである公共劇場の変化は公共劇場外の難民演劇にも影響を与えていると考えられる。公共劇場外での難民演劇の変化、特に難民自身による演劇実践の変化についてベルリン、ハンブルク、ミュールハイムで実地の調査を行い、考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度、2021年度、2022年度と新型コロナウィルスの感染拡大のため、そして2023年度も渡航は緩和されたものの健康状態を鑑み、当初予定していた現地でのフィールドワークや資料収集の実施を断念し、次年度使用額が発生することになった。本研究は難民の大規模流入から現在にかけてのドイツ演劇界における難民の表象の変化を、公共劇場の内外の作品の考察により明らかにしようと試みるものである。比較的映像資料も関連文献も入手しやすい公共劇場の作品とは異なり、公共劇場外(フリーシーン)のものの多くは現地での観劇が必要である。またそのような公共劇場外の演劇シーンの動向についての文献も極めて少ないため、現地で関係者への聞き取り調査が必要となる。そのため2024年度はベルリン、ハンブルクおよびミュールハイムでの長期間のフィールドワークを予定している。
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