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2022 年度 実施状況報告書

抵抗のヒストリオグラフィー:現代ドイツ文学における歴史小説の諸相

研究課題

研究課題/領域番号 20K12988
研究機関慶應義塾大学

研究代表者

粂田 文  慶應義塾大学, 理工学部(日吉), 准教授 (00756736)

研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2024-03-31
キーワードヨーロッパ文学 / 現代ドイツ文学 / ヒストリオグラフィー / 「物」の詩学
研究実績の概要

22年度は、想起のメーディウムとしての「Dinge(物)」に注目しながらテキストの精読を進めた。まず、 A・デーブリーンの歴史小説『November 1918』に挿入された、ベルリンの戦勝記念大通に並ぶ歴代君主の石像たちのエピソードを「博物館的語り」という概念を用いて分析した。18世紀後半から19世紀にかけて国民国家の思想や歴史主義の影響下で制度化された「博物館」の文化史的背景をふまえ、石にされた君主たちが戦争の犠牲者の幽霊に懲らしめられるというフィクションによって、「Ahnengalerie(先祖の肖像のギャラリー)」としての戦勝記念大通の機能や国民国家の大きな物語が骨抜きにされる仕組みを明らかにした。こうした「歴史を逆なで」にする語りは、「教授小説」と呼ばれる19世紀ドイツの歴史小説や歴史主義に対するデーブリーンの反発や抵抗の表れであり、そこに彼の歴史小説の革新性が潜む。この成果を論文「Als die Marmorfiguren in der Siegesallee die Geschichte gegen den Strich bruesteten. Aspekte musealen Erzaehlens in Alfred Doeblins 'November 1918'」としてまとめ、日本独文学会の機関誌に投稿した。また、J・エルペンベックの、あるユダヤ系一家を巡る家族小説『Aller Tage Abend』における小道具の分析を通して、物が本来の日常的な使用目的を超えて、そこに生きる人たちの記憶・物語を保存・継承する媒体としてのみならず、物語を追う読者の視線をも混乱させて作中の出来事に反省をうながすパフォーマティブな仕掛けとして機能することをつきとめた。現在、記憶の抹消や歴史の安易な物語化に抵抗する、エルペンベックならではの物の詩学について論文を執筆中である。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

20年度、21年度と、新型コロナウィルスの影響で予定していたドイツでの文献調査等ができず研究が停滞してしまったことが尾を引いている。22年度は在外研究でドイツに長期滞在し、文献調査とテキストの精読を進めながら研究の遅れを取り戻せるように努めたが、その過程で新たな視点や課題が見つかりそちらに時間を取られてしまった。

今後の研究の推進方策

上記で言及したエルペンベックのテキストにおける物の詩学に関する論文を仕上げるほか、モダニズム文学(デーブリーン)と壁崩壊後の文学(バイアー、エルペンベック)を繋ぐ作家(クリスタ・ヴォルフなど)のテキストの精読を進める。最終的には、テキストにおける「物・空間・ナラティブ」の相互関係に注目しつつ、モダニズムから壁崩壊後に至るまでのドイツ語圏文学におけるヒストリオグラフィーの諸相を浮かび上がらせることを目標とする。

次年度使用額が生じた理由

20年度、21年度と新型コロナウィルスの流行で海外渡航ができず、最低2回は予定していた国外出張(ドイツでの文献調査)
用の旅費が手つかずで残ってしまった。また22年度は本務校より長期在外研究(ベルリン)の機会を頂戴したため、ドイツで文献調査をするための高額な渡航費用を必要としなかった。23年度もドイツで在外研究が続くが、日本で開催される学会参加のための渡航費(ドイツ-日本)、および当該研究プロジェクトの関連で取り組んでいるデーブリーンの小説翻訳の校閲費等で使用する予定である。

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公開日: 2023-12-25  

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