研究課題/領域番号 |
20K12997
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研究機関 | 大阪経済法科大学 |
研究代表者 |
姜 信和 大阪経済法科大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (50725083)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 尹東柱の脱神話化 / トランスナショナルな視座 / 日本・韓国・朝鮮民主主義人民共和国・中国東北部 / 記憶と表象 / 民族主義 / 抵抗詩人言説 |
研究実績の概要 |
本研究は、植民地統治期に間島(旧満州)に生まれ福岡で獄死した詩人、尹東柱をめぐる言説の実態を再検討するものである。詩篇の内在的読解を基礎に、東アジアの国々で増幅され神話化されてきた言説形成の核心を究明する。先行の文学的評価はもとより、「民族」の詩人を記憶するための記念事業とメディアによる表象全般に分析対象を拡げて、テクストそれ自体と言説との差異を析出する。歴史的トラウマを背景にした被害者側と加害者側、双方の政治的無意識を注視してテクスト外の情報に過度に依拠しがちな言説を問い直す。それにより国家間で助長しあい、その結果として陥ってきた民族主義翼賛の構造を解明する。さらには犠牲者を弔おうとするがために陥る罠、現在の史観による表象と言説が抱えもつイデオロギー性の限界の提示をめざす。 以下は今年度の活動内容である。まず、予定していた国外への渡航は諦めざるを得ず海外の調査は断念した。研究は大幅に遅れている。国内の調査も自粛を余儀なくされたが、そのような情勢下にありながらも2020年11月7日、同志社大学尹東柱を偲ぶ会および同志社コリア同窓会主催、駐大阪大韓民国総領事館共催の公式行事に参加できた意義は大きい。改めて同志社大学今出川キャンパス内の詩碑のみならず、尹東柱の京都留学時代にゆかりのある場所を訪問し、詩碑建立にたずさわった関係者らの説明を収録した。 その他、名古屋大学において継続的に行ってきた尹東柱研究会は、オンラインに切り替え韓国とつないで定期的に開催した(2020年10月5日、12日、19日、26日、11月2日、9日、16日、23日、30日、12月14日、29日)。前期に研究会を行えなかったのは、コロナ禍で担当授業がオンラインになったことによる業務過多の影響である。またその後は、2021年1月9日に暴行事件に遭い負傷、現在も通院加療中にある結果、論文の発表などできていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
上記、概要にて詳細を述べた通り、コロナ禍による国内外への往来制限、担当授業のための業務過多、暴行を受けたことに起因する重い負傷が原因である。
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今後の研究の推進方策 |
研究の遅延を立て直すため、以前からの海外研究協力機関である韓国・国立済州大学校の研究者らに協力を求め、まずはオンラインによる尹東柱研究会を再開した。また当面、海外へ渡航し現地調査を行うことが難しいため、中国東北部の研究機関とも連携して可能な範囲で資料取集を行う準備を進めている。何よりも負傷による心身の回復に努めながら、これまで書きためてきた原稿を分割して推敲を加え、雑誌論文の発表を優先させる考えである。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由としては、コロナ禍による影響で国内外における現地調査を予定通りに行えなかったことが大きい。旅費については国内出張一回分の執行にとどまった。併せて対面による研究会も開催できなかったため、人件費・謝金が発生しなかった。一方で、オンライン環境の拡充のために最小限の物品は購入した。 次年度に繰り越した予算は、図書の購入ならびに研究協力者への謝金にあてるなど、研究の遅延解消のために有意義に活用する計画である。今後の進捗状況によっては最終年度の1年延長も視野に入れつつ、研究発表のうち論文投稿を最優先させる考えである。
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