最終年度である2023年度は、前年度までの調査研究を踏まえて、学会発表やシンポジウム、公開インタビューなどを行い、研究成果を広く公開・還元することができた。 「『びわの実学校』は「現代児童文学」を語るか――《童話の柱》を視座として」(日本児童文学学会2023年度6月例会)では、1950年代に「童話伝統批判」が展開される一方で、児童出版メディアにおいて坪田譲治や与田凖一が果たした役割を整理し、あまんきみこが《童話の柱》となっていく過程について、新発見資料も踏まえながら明らかにすることができた。 また「「車のいろは空のいろ」はなぜ「更新」されたか――「三巻本」と「四巻本」の成立をめぐって――」(シンポジウム「更新された『車のいろは空のいろ』全4冊をめぐって」、あまんきみこ研究会 第11回研究会)では、戦後児童出版メディアにおいて50年以上に渡って刊行を続けてきた、あまんきみこの「車のいろは空のいろ」シリーズの「改稿」について、一部の作品が国語科教材となったことを踏まえつつ、「童話」が「昔話」のような側面を強化していく過程を分析するとともに、他の登壇者や参加者と討議を行うことで、問題意識を広く共有することができた。 さらに「詩と絵本のことば―林木林さんに聞く」(日本児童文学学会第62回研究大会)では、絵本作家への公開インタビューによって、現代の児童出版メディアにおける「絵本」の制作・出版過程の一端を明らかにするとともに、「絵本のことば」の特性についても理解を深めることができた。 研究期間全体を通じて、戦後直後から1970年代半ばごろまでの児童向け雑誌・叢書への坪田譲治や与田凖一の関わり、そしてあまんきみこに注目することで、「童話伝統批判」を受けて成立したとする「現代児童文学」においても、「童話」が受け継がれていく過程を明らかにすることができた。
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