研究課題/領域番号 |
20K13002
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研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
日高 知恵実 明治学院大学, 教養教育センター, 助教 (70825174)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 中国語 / 漢語方言 / 方言グッズ / 方言コンテンツ / 社会言語学 / 方言の受容と活用 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、中国における方言の新たな受容や活用の実態を解明することにある。4年計画の3年目にあたる令和4年度は、主に以下の内容を進めた。 (1)中国語方言グッズのデータ整理:方言グッズとは方言を表記した商品を指す。これは、方言に経済的価値を見出して活用する産業の一つである。前年度に引き続き、中国各地における中国語方言グッズを収集し、学生アルバイターの協力を得ながら、画像の整理や表記されている方言データの抽出作業をおこなった。 (2)コロナ禍における研究の報告:国際都市言語学会からの依頼を受けて、コロナ禍における言語景観や方言研究の実践例を報告し、さらに若手研究者への研究支援に関する要望や提言をおこなった。 (3)方言グッズの成立に関する事例研究:中国各地に存在する方言グッズのうち、流通量や種類の多い四川方言グッズを取り上げ、その成立に至る言語的要因と社会的背景について検討した。まず、中国において方言グッズが登場した背景として、標準語の普及によって人々が中国語の方言を意識するようになったこと、識字率の向上によって方言を文字で表記した商品が受容されるようになったこと、さらに中国国内における観光産業の興隆などがあることを明らかにし、その上で、特に四川方言グッズが受容されている理由について、次のように考察した。①四川方言は標準語の基礎となった北方方言に属するため、南方方言とは異なり、標準語話者であれば一定程度理解が可能であるものの、特徴的な音韻体系や独自の語彙体系を有するため、②改革開放以降、四川から大量の出稼ぎ労働者が中国各地へ流入した結果、四川方言と接する機会が生まれたため、③その後の経済発展が四川のイメージを押し上げたため、④西部大開発によって四川における観光産業が活発になり、方言産業と結びつく地盤が整ったため。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度までに、中国における方言グッズを中心とした事例研究を積み重ねている。単なる資料収集にとどまらず、表記上の特徴、地域の経済的側面や方言イメージとの関連について考察し、日本をはじめとする他の地域の状況との比較も進めた。 一方で、新型コロナウイルス感染症の影響により、採択初年度から3年連続で中国への渡航が叶わず、現地でのデータ収集ができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
本課題申請当初では令和5年度が最終年度にあたる。そのため、事例研究をさらに前進させると同時に、本課題を総括することも意識したい。具体的には、①上海の方言景観を取り上げ、方言の経済的活用が引き起こす影響や方言景観が担う公共性について分析する。②方言の経済的活用が四川と並んで活発な河南における方言グッズの実態を対象として、方言景観をとりまく「意識」と「選択」について分析する。 また中国語方言グッズのデータ整理がすでにある程度進んでいることから、データベースの作成・公開も目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和4年度も新型コロナウイルスの感染状況を鑑み、国内外への調査や学会参加を控えた。そのため、旅費の支出がまったく発生せず、次年度への繰り越し金が生じた。 新型コロナウイルスの感染症法上における位置づけは現時点ですでに変更されており、行動制限も撤廃されている。渡航費の高騰が懸念されるが、今後は可能な範囲で中国への現地調査を実施し、また研究の成果を国内外の学会で発表する。
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