研究実績の概要 |
本研究では、比喩的な意味を効果的に伝達する構文の使用傾向を明らかにすることを目的として、比喩表現の構造と機能の対を分析し、比喩の構文の類型化を試みた。 構造面については、英語における比喩の構造の解明に取り組んだ。英語で比喩に使われる構文は、同等構文と類似構文であり、likeの副詞句構文を典型例とする、さまざまな構文バリエーションがあることが分かった。この成果は『認知言語学論考 No. 17』(ひつじ書房)で公刊した。また、従来研究で比喩の典型例とみなされてきた“A is like B”のような前置詞句述語構文は、話し言葉でのみ好まれる傾向があることが分かった。この結果は『JELS』(日本英語学会)にて発表した。 機能面については、フレーム分の観点から、日本語のコロナ禍の比喩における起点領域の傾向を調査した成果を、“The Routledge handbook of language and mind engineering” (Routledge), “Risk Discourse and Responsibility” (John Benjamins) で発表した。社会情勢が変化するにつれて好まれる起点領域が時間的に変化すること、社会的属性によるバリエーションがあることを明らかにしたことは、比喩研究の新たな展開につながる成果である。 研究期間の全体を通して得られた重要な成果は、頻度が最も高い比喩の構文は、副詞句構文(ないしは連用修飾句構文)であるということを明らかにした点である。この傾向は、日本語、英語の異なるデータセットを用いた調査で、繰り返し観察された。この結果は、従来研究の想定をくつがえすものであり、この分野における研究対象の再考を迫る、重要な意味をもつ研究成果であると言える。この構文の使用傾向の認知的、社会的背景を解明することが課題として残されている。
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