本研究では,会話の中で参与者がどのような「課題」に対処しながら会話をしているかという観点から会話の分析を行う.本研究における課題とは,必要な情報を得る(「情報の取得」)ことや,相手の注意を得る(「注意の確立」)ことなど,会話や会話と並行して行われる活動を遂行するために参与者が解決している問題を指す. 従来は「意図」が会話や発話の理解において重要だと考えられてきたが,発話者の意図は特定することができないため,意図を軸にした会話や発話の研究は観念的なものにとどまっている.これに対して本研究では,会話データの上で観察可能な「課題への対処」を軸に据えることで経験的な研究が可能である.またコーパスを用いることにより,従来の定性的な研究ばかりでなく,定量的研究も可能になる. 本研究の独自性は,日常会話を課題への対処という観点で分析するという点にある.これまで会話における課題という観点は,明示的な目的のもとになされる制度的会話の研究に限られていた.この観点を日常会話に適用するという点は本研究独自の視点である. 本研究の創造的な点は,学術的な関心を満たすとともに,工学的応用のための基礎を提供できる点である.近年,スマートスピーカーや介護ロボットなどへの社会的関心の高まりに合わせて,工学的応用の基礎段階としての日常会話の構造的理解の方法が求められているといえる.本研究はそのような基礎的知見を提供できる.
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