研究課題/領域番号 |
20K13023
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
石塚 政行 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 助教 (50838539)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | バスク語 / 副詞節 / 副詞 / 主要部 / 非飽和名詞 / 所有 |
研究実績の概要 |
この研究は,危機言語のひとつであるバスク語のデータに基づき,定形性と節の独立性の関係を明らかにすることを目指している。現在扱っている非定形節は,独立節,および,行為副詞を主要部とする句である。 独立節のデータは,バスク語方言の聞き取り調査およびその方言で書かれた小説等の文献調査によって前年度までに収集を終えた。(1)独立節を構成する名詞句または非動詞述語のどちらかが項を取ること,(2)その項が主節の項と同一指示となること,の2つの観点からデータを分析し,記述した。独立節が主節により組み込まれる構文として,所有動詞を主述語,独立節を二次述語とする「所有コピュラ文」に着目し,独立節と比較しつつ記述した。この成果は論文「変則的二項述語文としての所有文」で発表した。 行為副詞を主要部とする句の主要データは,バスク地方で複数人に同一のビデオを見せ,記述してもらうという方法で収集した。また,そのデータ観察を元に,行為副詞が節の主要部に近い(=より独立性が低い)場合があるという仮説を立て,1名のバスク語話者の協力によってそれを検証した。分析の過程で,軽動詞ari「する」が取る副詞的要素が,その補部か修飾部かを見分ける方法として,コントロール構文を用いることを提案した。また,この方法を用いて行為副詞がariの補部であることを示し,行為副詞は節の主要部に近い場合があるということを明らかにした。この成果は日本言語学会で「バスク語の動詞ari「する」と共起する副詞は補語か修飾語か」のタイトルで発表した。 また,これらのデータを分析する過程で生じた問題から,日本言語学会でワークショップ「グロス再考」を共同で開催した。例文を分析する際,多義語のどの意義がその文に関与しているかが決定しがたい例を複数指摘し,それがグロス(逐語訳)の付与において問題となりうることを示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では,様々な非定形副詞節について,独立性を検証する聞き取り調査を複数のバスク語話者の協力によって行う予定であった。 しかし,初年度から新型コロナウイルス感染症の流行に伴い海外渡航が制限されたため,データ収集方法を見直さざるを得なかった。具体的には,1名のバスク語話者のオンライン調査と,入手可能な範囲での文献調査である。結果として,研究の範囲を,以前から調査が進んでいた独立節および行為副詞に絞る結果になった。 2022年度は,年度末にフランスへ渡航して現地調査を行うことができ,複数名のバスク語話者の協力によって動名詞を主要部とする副詞節のデータ収集が進んだが,必要なデータをすべて得ることはできなかった。 2023年度は,それまで収集したデータの分析を完了し,成果を発表する計画であったが,残りのデータ収集および分析に時間を割く必要があるため,計画よりもやや遅れていると評価する。
|
今後の研究の推進方策 |
2022年度の現地調査で,複数名のバスク語話者の協力によって動名詞を主要部とする副詞節のデータ収集が進んだが,必要なデータをすべて得ることはできなかった。 2023年度は,残りのデータ収集を可能な限り行い,動名詞を主要部とする非定形副詞節の独立性についての分析を行う。同時に,これまで研究した独立節,行為副詞節との対照を通じて,バスク語の非定形副詞節の独立性についての見通しを得る。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症流行に伴う海外渡航の制限により,2021年度の当初旅費を執行することができなかった。結果として生じた2021年度未使用額が多かったことにより,2022年度に次年度使用額が生じた。 次年度予算は,調査旅費,および成果の発表にかかる英文校閲費,分析に必要な書籍等の物品購入費として使用する。
|