研究実績の概要 |
本研究の目的は,ドイツ語圏スイスで使用される書きことばの分析を通じて,テクストに出現する方言や変種の持つ意味を考察することにある。2020年度は,ドイツ語圏スイスにおける標準語と方言の関係の考察を行い,考察対象をスイス式標準語で書かれた各種テクストに定め,テクストに出現する方言的要素について,特に質的観点からの分析を試みた。2021年度の研究では,文学作品のテクストに見られるスイス特有の語彙や構文,言い回しを調査することを通して,言語規範や言語使用者の規範意識について考察した。研究期間全体を通じて,初年度の質的研究を踏まえ,ドイツ語圏スイスのテクストを分析し,地域的特徴がどのような文体的効果を与えているのかを考察した。今年度は特にヨハンナ・シュピーリの小説『ハイジの修行・遍歴時代』(Heidi’s Lehr- und Wanderjahre)と『ハイジは習ったことを生かすことができる』(Heidi kann brauchen, was es gelernt hat) を分析対象とし,テクスト中に出現するスイス的・地域的要素を見つけ出し,標準ドイツ語との違いを示した。また,テクストなどに出現するより具体的な文法現象に目を向け,とりわけsein, haben, gebenなどの特定の動詞を用いた構文を考察対象とし,そうした構文がどのような条件下で使用されるのかをアンケート調査の実施を通じて明らかにした。
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