研究実績の概要 |
先行研究において,聴覚障害児の音声言語獲得に関しては,単音節などの音韻情報のみでなくアクセントやイントネーションといった韻律情報に焦点を当てた研究も見られ,統語構造の明確化の役割のある韻律情報を用いることの有用性も示唆されてきた。しかし,これまでの研究では,リズムやメロディーなどの非言語的韻律情報とイントネーションなどの言語的韻律情報を活用する能力との関係や,韻律情報の活用能力と各聴覚障害児の言語力との関係については十分言及できていない。そこで本研究では,聴覚障害児の韻律情報の活用について音情報処理に関する諸能力との関係,そして言語力との関係性を明らかにすることを目的とした。 2023年度は前年度に収集した,文理解力と音読時のポーズ挿入の特徴との関連に関する実験データについて詳細な分析を行い,日本特殊教育学会(横浜大会)にて発表を行った。本実験では統語能力の評価に対し一定以上の信頼性が示されているJ-COSS日本語理解テストを参考に構文構造の異なる刺激文(三要素結合文,主部修飾文,受動文,述部修飾文)を設定し,文理解課題と音読課題を実施した。音読課題においては音響分析により各文の文節間のポーズ長を測定した。文理解課題においては,従来指摘されていたように文構造の違いにより聴覚障害児の正答率には個人差が大きく,特に述部修飾文(例:黄鬼が緑鬼が追いかけた青鬼を助けた)の正答率が低かった。文理解課題と音読時のポーズ長挿入の関連では,3要素結合文において文理解力が高い群は低い群よりも主語の直後に大きなポーズが挿入されるなど,文理解の程度によって文節間での挿入ポーズ長に違いが見られ,文の理解力によって発話時の韻律情報の表出は異なる可能性が示された。
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